こちらは「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡に搭載されている近赤外線カメラ「NIRCam」を使って2022年7月27日に取得された木星の画像です。
「ハッブル」宇宙望遠鏡などの画像で見慣れた木星とは違って「青い惑星」に見えるのは、ウェッブ宇宙望遠鏡が主に赤外線の波長で観測を行うから。人の目は赤外線を捉えることができないため、この画像は取得時に使用された3種類のフィルターに応じて赤・黄緑・シアンに着色されています(※)。
※…F360M:赤、F212N:黄緑、F150W2:シアンでそれぞれ着色
木星の北極と南極では、赤く着色されたオーロラが空高く輝いています。極域以外の場所に点在している赤い部分は、下層の雲や上層のヘイズ(もや)が反射した太陽光によるものです。オーロラを取り巻く黄緑色の部分は、極域周辺で渦巻くヘイズを示しています。また、赤道付近を取り巻く雲の帯や大赤斑は太陽光をより強く反射しているため、画像では白く見えています。
ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した木星の画像は2022年7月にも公開されていますが、以前公開されたのは試運転中に撮影されたものでした。今回の画像は本格的な科学観測が始まってから撮影されたもので、巨大な大赤斑をはじめとした大小様々な渦や、整然とした帯状から高緯度の混沌とした渦のパターンへと移り変わる雲の流れなどが鮮明に捉えられています。
関連:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が試運転中に撮影した木星とエウロパ
いっぽう、こちらは同じ日にNIRCamを使って、木星周辺のより広い範囲を捉えた画像です。2種類のフィルターを使って取得された画像をオレンジ(F212N)とシアン(F335M)に着色してから合成しているため、先ほどの画像とはオーロラの色などが異なっています。
アメリカ航空宇宙局(NASA)によれば、この画像には木星本体と比べて100万倍も暗いという木星の環や、環の左端に木星の衛星アドラステア(Adrastea、平均直径約16km)が、そのさらに左側には別の衛星アマルテア(Amalthea、平均直径約167km)が写っています。また、画像の下半分に点在するぼやけた光点は、背景の銀河だとみられています。
ウェッブ宇宙望遠鏡による今回の木星観測を主導したカリフォルニア大学バークレー校のImke de Pater名誉教授は「木星の細部だけでなく、木星の環、小さな衛星、さらには銀河までも1つの画像で見られるというのは、本当に驚くべきことです」とコメントしています。太陽系最大の惑星に関する新たな科学的成果を得るために、研究者たちはウェッブ宇宙望遠鏡を使って取得した観測データの分析を進めているとのことです。
ちなみに、オーロラからまっすぐに伸びている何本かの光はウェッブ宇宙望遠鏡の構造によって生じた回折(diffraction)パターンです。アマルテアにかかっているものは、この画像には写っていない衛星イオ(画像左側の範囲外)からの回折スパイク(diffraction spike)のようです。
ウェッブ宇宙望遠鏡が取得した木星の画像2点は、NASAやカリフォルニア大学バークレー校から2022年8月22日付で公開されています。
なお、この画像は米国在住の市民科学者Judy Schmidtさんが、今回の観測の共同研究者であるバスク大学のRicardo Huesoさんとの協力の下で処理を行いました。Schmidtさんは欧州宇宙機関(ESA)が10年前に主催したコンテスト「Hubble’s Hidden Treasures(ハッブルの秘宝)」で3位に入賞して以来、ハッブル宇宙望遠鏡やウェッブ宇宙望遠鏡が観測した天体の画像処理に取り組んでいます。
Source
- Image Credit: NASA, ESA, CSA, Jupiter ERS Team; image processing by Judy Schmidt.
- NASA - Webb’s Jupiter Images Showcase Auroras, Hazes
- カリフォルニア大学バークレー校 - Surprising details leap out in sharp new James Webb Space Telescope images of Jupiter
- ESA/Hubble - Hubble’s Hidden Treasures Revealed
- NASA - Meet a Citizen Scientist: Judy Schmidt
文/松村武宏