主星の超新星爆発を生き延びた伴星か? ハッブル宇宙望遠鏡による観測成果
【▲ 大質量連星系で超新星爆発を起こした主星(左奥)と、その伴星(右下)の想像図(Credit: ARTWORK: NASA, ESA, Leah Hustak (STScI))】
【▲ 大質量連星系で超新星爆発を起こした主星(左奥)と、その伴星(右下)の想像図(Credit: ARTWORK: NASA, ESA, Leah Hustak (STScI))】
【▲ 大質量連星系で超新星爆発を起こした主星(左奥)と、その伴星(右下)の想像図(Credit: ARTWORK: NASA, ESA, Leah Hustak (STScI))】

超新星爆発は、質量が太陽の8倍以上ある重い星や、白色矮星を含む連星系で起きるとされる激しい爆発現象です。この宇宙には重力で結びついた複数の恒星からなる連星も珍しくないため、恒星として最後の時を迎えた主星の超新星爆発に伴星が遭遇することもあり得ます。

宇宙望遠鏡科学研究所(STScI、アメリカ)の天文学者Ori Foxさんを筆頭とする研究グループは、「ハッブル」宇宙望遠鏡による観測の結果、主星の超新星爆発から生き延びた伴星の可能性がある天体を検出したとする研究成果を発表しました。発見を確かなものとするためには追加の観測やさらなる同種の伴星を見つける必要があるものの、ある種の超新星爆発や大質量連星系の進化に関する手がかりになるとして、今回の成果は期待されています。

■超新星のすぐ近くに明るさを保つ別の天体が存在する?

【▲ 棒渦巻銀河「NGC 3287」と超新星「SN 2013ge」の拡大図(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Ori Fox (STScI); IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI))】
【▲ 棒渦巻銀河「NGC 3287」と超新星「SN 2013ge」の拡大図(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Ori Fox (STScI); IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI))】

こちらはハッブル宇宙望遠鏡が撮影した棒渦巻銀河「NGC 3287」です。「しし座」の方向約4200万光年先にあるNGC 3287では、2013年11月8日に超新星「SN 2013ge」(Ib/c型)が検出されました。

右側に挿入されているのは、SN 2013geが検出された場所を拡大した画像です。挿入画像は上から順に2016年、2019年、2020年に取得されたもので、SN 2013geの位置は2本の直線が交わる場所として示されています。

ハッブル宇宙望遠鏡による5年間に渡る観測データを分析した研究グループは、SN 2013geの明るさが年々暗くなっているいっぽうで、そのすぐ近くにある紫外線源(紫外線を放つ天体)が明るさを保っていることを見出しました。この紫外線源の正体について研究グループは、SN 2013geとして観測された主星の超新星爆発を生き延びた伴星ではないかと考えています。

■外層を失った星が起こす超新星の謎を解く手がかりとなるか

もしもSN 2013geが連星で起きた超新星であり、実際に伴星が検出されたのであれば、今回の発見は大質量星の超新星爆発に関する新たな知見をもたらすことになりそうです。

恒星は元素の核融合反応で生じるエネルギーに支えられています。超新星爆発を起こす大質量星の内部では、水素の核融合ができなくなると次にその生成物であるヘリウムが、その次は炭素が、さらにその次はネオンが……といったように、核融合で生成されたより重い元素による反応が続いていきます。そのため大質量星の内部では、様々な元素がタマネギのように層を形成していると考えられています。

【▲ 進化した大質量星の内部を示した模式図。外側から順に水素、ヘリウム、炭素、ネオン、酸素、ケイ素が層をなし、中心では鉄のコアが形成されている(Credit: Wikimedia Commons)】
【▲ 進化した大質量星の内部を示した模式図。外側から順に水素、ヘリウム、炭素、ネオン、酸素、ケイ素が層をなし、中心では鉄のコアが形成されている(Credit: Wikimedia Commons)】

より重い元素による核融合反応は酸素ケイ素にも続いていきますが、でできたコア(核)が生成されるようになると自重を支えられなくなってコアが崩壊し、その反動によって恒星の外層が吹き飛んで超新星爆発に至るとされています。

大質量星が起こす超新星爆発は「II型」「Ib型」「Ic型」に分類されています。II型は“タマネギ”の一番外側にあたる水素の層がある星Ib型水素の層がない星Ic型水素の層だけでなくヘリウムの層もない星で起きた超新星だと考えられています。SN 2013geはほぼIc型とみられていますが、弱いヘリウムの特徴も認められたことからIb/c型とされています。

超新星爆発の前に水素やヘリウムの層が失われる理由として、これまでは大質量星の強力な恒星風によって外層のガスが流出するからではないかと考えられていました。しかし、観測ではその仮説に否定的な結果が得られてきたといいます。観測結果を受けて研究者たちが新たに導き出したのは、伴星によって水素やヘリウムが剥ぎ取られる可能性でした。

研究に参加したトロント大学のMaria Droutさんは「外層を剥ぎ取られた星の超新星はおそらく連星で生じることを、近年では多くの証拠が示しています。ただ、私たちはまだ実際にそのような伴星を見たことがありませんでした」と語ります。SN 2013geを起こしたのは少なくとも水素の層を失っていた恒星であり、その伴星が見つかったとすれば、この仮説を裏付ける発見となるわけです。

【▲ SN 2013geが起きた連星系で想定される進化を示した図。質量の大きな主星は伴星に水素を剥ぎ取られつつ超新星爆発を起こし(1~3)、残された伴星もまた超新星爆発に至る(4~5)。最後には中性子星やブラックホールからなる連星が残される(6)(Credit: ILLUSTRATION: NASA, ESA, Leah Hustak (STScI))】
【▲ SN 2013geが起きた連星系で想定される進化を示した図。質量の大きな主星は伴星に水素を剥ぎ取られつつ超新星爆発を起こし(1~3)、残された伴星もまた超新星爆発に至る(4~5)。最後には中性子星やブラックホールからなる連星が残される(6)(Credit: ILLUSTRATION: NASA, ESA, Leah Hustak (STScI))】

なお、仮に存在するとした場合、伴星も超新星を起こすのに十分な質量を持っているとみられており、主星と同じように爆発して恒星としての寿命を終えると考えられています。超新星の後には中性子星やブラックホールが誕生する可能性もあることから、やがてこの連星は中性子星どうしやブラックホールどうし、あるいは中性子星とブラックホールからなる連星へと進化することになるかもしれません。

研究を率いたFoxさんは、超新星だけでなく連星の形成や進化に関する理解を深めるためにも、こうした伴星の観測と研究に意欲を示しています。研究に参加したカリフォルニア大学バークレー校の天文学者Alex Filippenkoさんは「私たちにとって、大質量星のライフサイクルを理解することは特に重要です。なぜならば、すべての重元素は大質量星のコアと超新星によって生成されているからです。私たちが知る生命をはじめ、これらの元素は観測可能な宇宙の大部分を構成しています」とコメントしています。

 

Source

  • Image Credit: NASA, ESA, Leah Hustak (STScI), Ori Fox (STScI), Joseph DePasquale (STScI), Wikimedia Commons
  • NASA/STScI - Hubble Reveals Surviving Companion Star in Aftermath of Supernova
  • Fox et al. - The Candidate Progenitor Companion Star of the Type Ib/c SN 2013ge

文/松村武宏