アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年10月28日付で、惑星探査機「ボイジャー1号(Voyager 1)」に搭載されている送信機の1つが停止していることを明らかにしました。発表時点ではしばらく使われていなかった別の送信機を経由して通信が再確立されており、通常の運用に戻すための作業が進められています。
1981年以降使われていなかったSバンド送信機経由で通信中
NASAによると、停止したのは8.4GHz帯の電波を使用するXバンド送信機です。2024年10月18日にNASAのディープスペースネットワーク(DSN、深宇宙通信網)がボイジャー1号からの信号を捉えられなかったことで問題が発覚。2日前の10月16日にはボイジャー1号のヒーターの1つをオンにするためのコマンドが送信されており、運用チームはこのコマンドが障害保護システムの作動を誘発してデータの送信速度が低下したと推論しました。
障害保護システムは探査機で問題が発生した場合に対応するためのシステムで、たとえば電力消費が過剰になった時は障害保護システムが必須ではないシステムをオフにして電力を節約します。運用チームは10月18日のうちにボイジャー1号からの信号を発見して何が起きたかの調査を始めましが、10月19日には通信が完全に停止したように見受けられる状態になってしまいました。
運用チームは、障害保護システムがさらに作動した結果、2.3GHz帯の電波を使用するSバンド送信機に切り替わったのではないかと考えました。Xバンド送信機と比べて消費電力が少ない代わりに信号が弱いSバンド送信機は1981年以降地球との通信には使用されておらず、運用チームには受信できるかどうか確信できなかったといいます。
しかし、DSNのエンジニアはSバンド送信機からの信号を捉えることに成功。10月22日に運用チームがコマンドを送信した結果、10月24日に通信が再確立され、Sバンド送信機が機能していることが確認されました。現在、運用チームは障害保護システムが作動した原因の解明に取り組んでおり、ボイジャー1号を通常の運用に戻すべく情報を集めています。
打ち上げから47年 トラブルに見舞われつつもミッション継続中
1977年9月に打ち上げられたボイジャー1号は、1979年に木星、1980年に土星のフライバイ観測を行った後も飛行を続け、2012年に太陽圏を脱出。1990年にボイジャー1号が60億km先から撮影した点のような地球は「Pale Blue Dot(ペイル・ブルー・ドット)」として知られています。
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打ち上げから47年が経った日本時間2024年10月31日現在、ボイジャー1号は地球から約248億km(約166天文単位)、光速でも約22時間59分を要する遠い位置を飛行しています。送信したコマンドに対する応答を受信するのにほぼ丸2日かかるため、探査機の状態を確認するだけでも時間が必要です。
星間空間の貴重な観測データをもたらし続けているボイジャー1号は、半世紀近くミッションを続けていることもあり度々問題が発生しています。最近では2023年11月に読み取れないデータを送信するトラブルが発生しましたが、2024年6月までに稼働中の科学機器すべての観測データ送信を再開。また、2024年8月には姿勢をコントロールするためのスラスターの切り替え作業に成功しています。今回のXバンド送信機の問題については新しい情報が発表され次第お伝えします。
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文・編集/sorae編集部
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