こちらは月の南半球にある直径86kmの「ティコ・クレーター」と、その周辺200km×175kmの範囲を収めたモノクロ画像です。クレーターの縁から底に向かって段々と下がっていく地形の複雑な様子や、クレーターの底にある中央丘が捉えられています。掲載できる解像度の都合から記事の画像は縮小していますが、本来の観測データは5m×5mの高解像度(約14億ピクセル)とされています。
高解像度の月面画像というと宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「かぐや」やアメリカ航空宇宙局(NASA)の「ルナ・リコネサンス・オービター(LRO)」といった周回探査機から撮影されたものを想像しますが、実はこの画像には地上からの観測データから用いられています。観測を実施したのはアメリカのグリーンバンク天文台(GBO)にある「グリーンバンク望遠鏡(GBT)」と、米国立電波天文台(NRAO)が運用する「超長基線アレイ(VLBA)」です。
グリーンバンク望遠鏡は口径100mの巨大な電波望遠鏡で、2020年後半にグリーンバンク天文台とレイセオンが共同開発したレーダー送信機が設置されました。いっぽう、VLBAはアメリカ各地に建設された口径25mのアンテナ10基から構成される電波干渉計(基線長8000km)で、各アンテナが連携することで高解像度の電波観測を行うことができます。
今回のレーダー観測では、グリーンバンク望遠鏡が月面に向けてレーダー波を送信する役目を、VLBAが月面で反射したレーダー波を受信する役目を果たしました。グリーンバンク天文台と米国立電波天文台によると、地上から観測された月面の画像としては史上最高の解像度が実現したとのことです。冒頭の画像はグリーンバンク天文台および米国立電波天文台から2021年9月21日付で公開されています。
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Image Credit: NRAO/GBO/Raytheon/NSF/AUI
Source: グリーンバンク天文台 / 米国立電波天文台
文/松村武宏