朗報? 赤色矮星のフレアが系外惑星に及ぼす影響は限定的かもしれない
【▲ 高緯度で強力なフレアが生じている赤色矮星(左)と系外惑星(右)を描いた想像図(Credit: AIP/ J. Fohlmeister)】
高緯度で強力なフレアが生じている赤色矮星(左)と系外惑星(右)を描いた想像図(Credit: AIP/ J. Fohlmeister)
【▲ 高緯度で強力なフレアが生じている赤色矮星(左)と系外惑星(右)を描いた想像図(Credit: AIP/ J. Fohlmeister)】

ポツダム天体物理学ライプニッツ研究所(AIP)のEkaterina Ilin氏らの研究グループは、太陽よりも小さな恒星である赤色矮星で生じた強力なフレアに関する研究成果を発表しました。今回の成果は、赤色矮星を公転する太陽系外惑星における生命探査にとって、大きな意味を持つことになるかもしれません。

■高速で自転する4つの赤色矮星では高緯度で強力なフレアが発生していた

赤色矮星(M型星)は太陽(G型星の一つ)よりも小さな星で、天の川銀河ではありふれたタイプの恒星です。表面温度は摂氏3000度台程度と低く、比較的暗くて赤い色をしているという特徴があります。人類はこれまでに4400個以上の系外惑星を発見していますが、そのなかには赤色矮星を公転する地球に近いサイズの系外惑星が幾つも含まれています。

地球に似た惑星となれば生命が存在する可能性も注目されますが、赤色矮星では恒星の表面で発生する爆発現象「フレア」が起きやすいことが知られています。強力なフレアは惑星上の生命を脅かすだけでなく、長期的には惑星の大気を剥ぎ取ってしまうことも考えられます。そのため、赤色矮星を公転する系外惑星の環境は、少なくとも地球型の生命にとっては住みにくい可能性が指摘されています。

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研究グループは今回、赤色矮星のフレアが惑星に及ぼす影響を調べるために、高速で自転する恒星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)からフレアの発生した「緯度」を割り出す手法を開発。アメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS」の観測データからこの手法に適した4つの赤色矮星(自転周期は約2.7~8.4時間と短い)を選び出し、TESSによって捉えられた白色光フレア(可視光をともなう強力なフレア)の分析を行いました。

その結果、4つの赤色矮星で発生した長時間の白色光フレアは、緯度55~81度の比較的高緯度な領域で発生していたことが明らかになりました。研究グループによると、仮にフレアが恒星表面で均等に発生すると仮定した場合、これほど高緯度に偏って発生した4つのフレアを連続して発見する確率は、およそ1000分の1だといいます。

つまり、これらのフレアは偶然高緯度で発生したのではなく、もともと高緯度で発生しやすいのではないかというのです。研究グループによると、高速で自転する恒星ではフレアや黒点が高緯度の両極付近に現れる傾向がみられることが過去の研究において示されていたといいます。今回の成果はその証拠ともみなされており、研究に参加したAIPのKatja Poppenhaeger氏は「高速回転する星の磁場構造をより良く理解する上で役立つでしょう」とコメントしています。

■赤色矮星を公転する系外惑星の環境は従来の予想ほど厳しくはないかもしれない

前述のように、赤色矮星を公転する系外惑星は強力なフレアの影響を強く受ける可能性があるため、その環境は地球型の生命には厳しいのではないかと考えられています。しかし、高速で自転する赤色矮星の強力なフレアが赤道から離れた高緯度に偏って生じやすいとすれば、系外惑星に対するフレアの影響は限定的な範囲で済むかもしれません。

なぜかというと、系外惑星が赤色矮星の赤道面(天体の赤道が描き出す平面、自転軸に対して垂直)に沿った軌道を公転していた場合、フレアにともなって放出された粒子が系外惑星の方向には向かわないことになるからです。Ilin氏は「太陽系の惑星と同じように赤色矮星の赤道面上を公転する系外惑星は、惑星系の上下方向に面した強力なフレアの大部分から保護されるかもしれません」と語ります。

惑星は若い星を取り囲むガスや塵でできた円盤(原始惑星系円盤)のなかで形成され、その公転軌道面(公転軌道が描き出す平面)は恒星の赤道面に近くなると考えられています。たとえば、太陽系の惑星の公転軌道面は、太陽の赤道面に対してほぼ揃っています。

いっぽう、2020年に東京工業大学などの研究者らによって、「みずがめ座」の方向およそ40光年先にある赤色矮星「TRAPPIST-1」を公転する7つの地球サイズの系外惑星のうち、ハビタブルゾーンに位置するものを含む3つの惑星の公転軌道面が、TRAPPIST-1の赤道面に近いとする研究成果が発表されています。この研究では、低温・低質量な赤色矮星の周囲でも、太陽系と同じように恒星の赤道面に沿った公転軌道上に惑星が形成され、その後も軌道が大きく乱れない可能性が示されました。

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赤色矮星「TRAPPIST-1」(左端)と、その周囲を公転する7つの系外惑星を描いた想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)
【▲ 赤色矮星「TRAPPIST-1」(左端)と、その周囲を公転する7つの系外惑星を描いた想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

40光年先のTRAPPIST-1をはじめ、わずか4.2光年ほどしか離れていない「プロキシマ・ケンタウリ」や、約12.5光年先の「ティーガーデン星」など、太陽系に近い赤色矮星の周囲でもサイズが地球に近いと思われる系外惑星が見つかっています。最近では、約35光年先の赤色矮星「L 98-59」でも、ハビタブルゾーンに新たな系外惑星が存在する可能性が指摘されています。

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こうした赤色矮星を周回する系外惑星の環境は、主星の自転周期ハビタブルゾーンの範囲公転軌道の傾きといった条件次第では、従来予想されていたほど厳しいものではないのかもしれません。

ただし、今回の研究で白色光フレアが発生した緯度が調べられたのは、4つの赤色矮星に限られます。研究グループでは、延長ミッションに入ったTESSによる2度目の全天観測データによって、さらに多くのフレアを対象に今回の手法を検証する機会が得られることに期待を寄せています。

 

Image Credit: AIP/ J. Fohlmeister
Source: AIP
文/松村武宏