こちらは「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影した「おとめ座」の一角。縦に並んでぼんやりと光る2つの光点と、それを取り囲むように輝く4つの光点が、画像の中央に見えています。欧州宇宙機関(ESA)によると、4つの光点はもともと「2M1310-1714」と呼ばれる1つのクエーサー(※)で、中央に並んで見える2つの銀河がもたらした「重力レンズ」効果によって像が分裂して見えているのだそうです。
※…銀河全体よりも明るく輝くような活動銀河核(狭い領域から強い電磁波を放射する銀河の中心部分)のこと
重力レンズ効果とは、遠くにある天体の像が手前にある天体の重力によって歪んで見える現象のこと。この場合、約100億光年先にあるクエーサーから発せられた光の進む向きが、地球との間(約30億光年先)に位置する2つの銀河の重力によって曲げられることで、地球からは分裂した像に見えるというわけです。
ESAによると、ハッブルの観測データはクエーサー「2M1310-1714」の像が4つではなく5つに分裂していることを示しているといいます。5つ目の暗い像はちょうど真ん中に位置しているといい、2つの銀河がレンズの役目を果たしたことで生じた珍しい現象だとされています。
重力レンズ効果はアルベルト・アインシュタインの一般相対性理論によってその存在が予言されていた現象で、像がリング状に見えるものは「アインシュタインリング」、像が十字を描くように分裂して見えるものは「アインシュタインの十字架」と呼ばれることもあります。
冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」による光学および赤外線の観測データをもとに作成されたもので、ハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚「Seeing Quintuple」としてESAから2021年8月9日付で公開されています。
関連:重力レンズ効果が生む「アインシュタインの十字架」が一度に12個みつかる
Image Credit: ESA/Hubble & NASA, T. Treu
Acknowledgment: J. Schmidt
Source: ESA/Hubble / EPFL
文/松村武宏