国立極地研究所の山口亮氏ら国際研究グループは、2020年にアルジェリアで見つかった隕石が知られているものとしては最古となる太陽系初期の火山岩であることが明らかになったとする研究成果を発表しました。研究グループは、こうした初期の太陽系における火山活動の状態を残す隕石の研究を通して、太陽系の進化についての理解が深まることに期待を寄せています。
■分析された隕石は45億6500万年前に噴出した溶岩が固まったもの
初期の太陽系では塵が集まって微惑星や原始惑星が形成されていたと考えられています。地球をはじめとしたより大きな惑星の原材料となったこれらの天体は、放射性元素の崩壊熱に加熱されたことで融解した内部から溶岩が噴出し、火山岩でできた地殻に覆われていたとみられています。
今回研究グループが分析したのは、2020年5月にアルジェリア南部の砂漠で見つかった「Erg Chech 002」(以下EC 002)と呼ばれる隕石です。研究グループが化学組成を分析した結果、EC 002はケイ素が比較的豊富な火山岩である安山岩と判明しました。後にEC 002となる溶岩が固まった年代は太陽系誕生直後(※)の今から45億6500万年前(太陽系誕生から225万5000年後)とみられており、研究グループではEC 002が既知の岩石や隕石としては最も古い火山岩だとしています。
※…今回の発表では太陽系で最初の固体物質形成をもって「太陽系誕生」とされています
研究グループによる解析の結果、この溶岩が発生してから固化するまでの様子も明らかになったといいます。まず、溶岩は天体内部で発生してから噴出するまで数十万年を要したといいます。これは粘性が高く流動性が低い安山岩質溶岩の特徴によるものとみられています。噴出した後の溶岩は1年あたり摂氏5度というゆっくりとしたペースで摂氏1200度から1000度まで冷えていったといいますが、これは厚さ数mの溶岩の冷却速度とされています。
ところが、摂氏1000度を下回った頃からは1日あたり摂氏0.1~1度以上のペースで溶岩が冷えたようです。急冷の理由としては、溶岩を噴出した原始惑星に隕石が衝突したことで、溶岩が地表に放出されたことが考えられるといいます。
研究グループによると、太陽系初期の微惑星や原始惑星の表面を覆っていた火山岩はケイ素が比較的少ない玄武岩だったと考えられてきたものの、最近の研究では安山岩だった可能性が示されていました。
安山岩は地球上ではありふれた岩石ですが、隕石としてはこれまでわずか数個しか見つかっていなかったといい、微惑星や原始惑星を覆っていたのが玄武岩と安山岩のどちらだったのかについては議論が分かれていたといいます。既知の火山岩としては最古とみられるEC 002が安山岩だったことで、太陽系初期の天体では安山岩質の溶岩が普遍的に存在していた可能性が今回示されたことになります。
いっぽう、研究グループによると、EC 002と同様の分光学的特徴(波長ごとに分けて捉えた光の特徴)を持つ小惑星は現在の太陽系では今のところ見つかっていないといいます。その理由について研究グループは、当時の天体に存在していた安山岩が衝突によって破砕されて惑星などの材料になったことで、現在の太陽系では安山岩が非常に少なくなったためだと考えています。
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Image Credit: 国立極地研究所
Source: 国立極地研究所
文/松村武宏