NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」の観測データをもとに再現された月の画像(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)

人類にとって身近な天体であるは、古くから物語の舞台となったり暦を定めるために用いられたりしてきましたが、人の気分や行動にまで何らかの影響を及ぼしているのではないかとも考えられてきました。今回、ワシントン大学のHoracio de la Iglesia氏が率いる研究グループは、月の満ち欠けが人間の睡眠に影響を及ぼしている可能性があるとする研究成果を発表しています。

■睡眠ログから月の満ち欠けと同じ29.5日の周期を発見

人間には睡眠や覚醒のタイミングなどを司る「概日リズム(circadian rhythm)」と呼ばれる約1日周期のリズムが存在することが知られています。概日リズムは特に光の影響を強く受けると考えられていて、研究グループによると、電気を用いた照明の利用が人の睡眠に影響を与えている可能性がこれまでの研究において示されてきたといいます。

今回研究グループはアルゼンチンの先住民族98人を対象に、手首装着型のデバイス(フィリップスのActiwatch Spectrum Plus)で収集された1~2か月間に渡る睡眠ログを調査しました。調査の対象者は「照明を利用していない農村の住民」「限定的に照明を利用する農村の住民」「照明の利用に制限がない都市の住民」の3グループに分かれており、照明から受ける影響がそれぞれ異なっています。

睡眠ログを分析した結果、都市の住民は農村の住民よりも就寝時間が遅くて睡眠時間も短く、過去の研究で指摘されていた照明に由来するとみられる影響が今回の調査でも示されたといいます。ところが、研究グループは照明の影響が異なるはずの都市の住民と農村の住民双方の睡眠ログにおいて、月の満ち欠けと同じ29.5日周期で就寝時間と睡眠時間が変動していることに気がついたといいます。

研究グループによると、この周期のもとで睡眠時間の長さは46~58分変化し、就寝時間は前後に約30分変動。3つのグループにおける変化を平均すると、満月に至るまでの3~5日間で就寝時間が最も遅く、睡眠時間が最も短いことが明らかになったといいます。そこで研究グループが別の調査のために記録されていたシアトルの大学生464人を対象にした睡眠ログを分析したところ、やはり同様の周期が確認されています。

■照明発明前の睡眠のリズムが今も残っている?

▲今回の研究内容を紹介する動画(英語)(Credit: ワシントン大学)▲

研究グループではこの周期について、人類の祖先が月明かりを利用していた頃のなごりではないかとの仮説を立てています。

照明が発明される前、人が夜間に利用できた最大の光源は月でした。特に満月直前の数日間は明るい月が午後遅くから夕方に姿を現し、周囲を明るく照らします。研究グループによると、かつての人類は満月前のこの時期になると月明かりに夜行性の活動が刺激されていて、そのことが今も月の満ち欠けに同期した就寝時間や睡眠時間の変化として現れているのではないかというのです。

なお、満月後の数日間も同じくらい明るい月が昇りますが、月の出は毎日約50分ずつ遅くなっていくため、研究グループは満月前よりも遅く昇るようになる満月後の月は夜間の照明としては利用しづらかったのではないかと推測。結果として就寝時間が最も遅く睡眠時間が最も短くなる時期が満月の前に集中しているとみられています。

また、これまでの研究で可能性が示されてきた人工照明による就寝時間や睡眠時間への影響も、照明が満月前の月明かりと同様の刺激となって睡眠を乱していることが考えられるとde la Iglesia氏は指摘しています。さらに研究グループは、前述の先住民族グループのうち主に農村の2グループの睡眠ログから月の満ち欠けの半分となる15日の周期で変化する2つ目のリズムらしきものも見つかったとしており、光とは別の要因(重力など)が影響している可能性も考えられるといいます。

ただ、発表でも触れられているように、月が実際に人間の睡眠に影響を及ぼしているかどうかは研究者のあいだでも議論が続いています。「人工の明かりが満ちあふれる都会では、外出したり窓の外を見たりしない限り月の満ち欠けには気が付かないでしょう」と語る論文の筆頭著者であるワシントン大学のLeandro Casiraghi氏は、今後の課題として「この効果が光に影響されやすい概日リズムを通して作用しているのか、それとも睡眠のタイミングに影響を与える別のシグナルを介しているのか、学ぶべきことは山ほどあります」とコメントしています。

 

Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center
Source: ワシントン大学
文/松村武宏

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