こちらの画像には、天の川銀河の恒星や遠方の銀河とともに淡く幾何学的な渦巻き模様が写し出されています。宇宙の渦巻き模様というと渦巻銀河が思い浮かびますが、これは銀河ではありません。地球からおよそ3400光年先の天の川銀河内にある星「ペガスス座LL星(LL Pegasi)」から放出された塵が光を散乱させているために、このような模様が浮かび上がっています。ペガスス座LL星は周囲を取り囲む渦巻き模様の中心にありますが、自身が放出した大量の塵によってその光は遮られています。
ペガスス座LL星は赤色巨星と別の星から成る連星と考えられています。赤色巨星は太陽のように比較的軽い恒星(質量が太陽の8倍以下)が晩年を迎えた姿で、ガスや塵を周囲に放出しつつ、やがて中心の熱い芯の部分だけが白色矮星として残されると考えられています。
時速およそ5万kmで外側に向かって広がり続けている渦巻き模様はガスや塵を放出する赤色巨星ともう一方の星との相互作用によって形成されたとみられていて、広がる速度と模様の間隔をもとに連星の公転周期は約800年と算出されています。また、研究者らによるシミュレーションの結果、連星の軌道は非常に細長い楕円形をしていると結論付けられています。
赤色巨星の段階で放出されたガスが白色矮星の放つ紫外線によって電離して輝く天体は、惑星状星雲と呼ばれています。惑星状星雲の中には翼の形や蝶の羽、砂時計のように見えるものもありますが、複雑な姿の形成には連星の相互作用が関わっているのではないかとも考えられています。ペガスス座LL星は惑星状星雲が形成される手前の段階にあるとみられており、いずれはここに美しい星雲が現れることになるのでしょう。
冒頭の画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」によって可視光線と赤外線の波長で撮影されたもので、2010年9月6日に公開されました。また、最後の画像はチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡」によって電波で観測されたもので、2017年3月3日に公開されています。
Image Credit: ESA/NASA & R. Sahai
Source: ESA/Hubble / 国立天文台
文/松村武宏