理化学研究所(理研)は7月8日、リィイ・グー氏らの国際共同研究チームによるさまざまな手段を使った観測によって、宇宙の大きな構造である銀河団が衝突したその瞬間にあたる様子を初めて観測することに成功したと発表しました。

衝突した銀河団の圧力分布。下に引かれた白い破線が衝撃波を示す

観測の対象となったのは、地球からおよそ12億光年先にある2つの隣り合った銀河団。観測に用いられたのは、日米欧のX線観測衛星「すざく」「チャンドラ」「XMM-Newton」をはじめ、オランダが中心となって運営されている欧州の低周波電波望遠鏡「LOFAR」、インドの巨大メートル波電波望遠鏡「GMRT」です。

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複数のX線観測衛星を使った観測では、銀河団の間に7000万度という高温のプラズマが300万光年以上に渡り帯状に広がっていることが分かりました。天の川銀河の直径がおよそ10万光年(円盤部の大きさ)とされているので、天の川銀河を30個以上並べられるくらいの広がりがあることになります。

この高温な領域の端の部分では、プラズマの温度と密度が急激に下がっていることから、高温なプラズマには衝撃波が存在していることも判明。衝撃波が伝わっている方向は、銀河団どうしが衝突する方向に対して垂直の向きであることもわかりました。

また、銀河団の中間からは、低い周波数の電波が放射されていることも観測されました。高い周波数の電波による放射は確認できないため、これは通常の天体が発したものではなく、衝撃波の影響を受けて放射されたものと見られています。

X線観測衛星チャンドラで捉えたX線(青)と、インドの巨大メートル波電波望遠鏡(GMRT)で捉えた低周波の電波(赤)を、可視光の画像に重ねたもの

従来のコンピューターシミュレーションでは、銀河団どうしが衝突した初期の段階では衝撃波が垂直に広がり、後半では衝突の方向に沿って衝撃波が伝わると予測されていました。以上の観測成果とシミュレーションによる予測を踏まえた上で、研究チームは、今回観測した銀河団どうしはまさに衝突した瞬間にあると結論付けたのです。

銀河団が衝突する様子を示した模式図。今回観測されたのは、中央の「衝突の瞬間」に垂直方向に広がる衝撃波(赤い曲線)

衝突の方向と垂直に広がる衝撃波は、衝突の方向に沿う衝撃波よりもずっと広い空間に大きな影響を与えると考えられています。今回の研究成果は、銀河団がどのように進化してきたのかを理解し、宇宙の大規模な構造がどのように形成されてきたのかを解き明かすことに貢献すると期待されています。

12億光年先、7000万度、300万光年の広がりと、人間のスケールとは比べようもない大きさですが、これでも宇宙全体からすればほんの一部の出来事に過ぎません。一体人類は、宇宙をどこまで理解することができるのでしょうか……。

 

Image Credit: 理化学研究所
http://www.riken.jp/pr/press/2019/20190708_1/
文/松村武宏

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