
NASA=アメリカ航空宇宙局は2025年4月21日付で、小惑星探査ミッション「Lucy(ルーシー)」の探査機がフライバイ探査を行った小惑星「Donaldjohanson(ドナルドジョハンソン)」の画像を公開しました。
Donaldjohansonのサイズは予想を上回る全長約8km

こちらが今回公開された画像のひとつです。Lucy探査機の望遠カメラ「L’LORRI」で最接近直前の日本時間2025年4月21日2時51分に、Donaldjohansonから約1100km離れた位置で取得されました。この約40秒後、探査機はDonaldjohansonから960km離れた最接近点を通過しています。
Donaldjohansonは火星と木星の間にある小惑星帯に位置する小惑星のひとつです。これまでの観測では、Donaldjohansonは10日間にわたって明るさが大きく変化する様子が確認されていました。2つの小惑星がつながった接触二重小惑星のような姿が捉えられたことで、Lucyミッションの一部のチームメンバーは明るさの変化をもとにした予想が的中したとみています。その一方で、ソフトクリームのコーンを重ねたような不思議な形をしているくびれの部分は予想外だったといいます。

また、こちらはL’LORRIを使って日本時間2025年4月21日2時50分から約2秒間隔で取得されたDonaldjohansonの画像をつなげたアニメーションです。元になった画像は毎秒13.4kmという相対速度で通過するLucy探査機が向きを変えながら取得したため、小惑星が回転しているような見かけ上の動きが生じています。この時の小惑星からの距離は約1600~1100kmでした。
NASAによると、最初に利用可能な画像を使った予備分析の段階では、Donaldjohansonのサイズは当初の推定値である約3.9kmよりも大きい、全長約8km・最大幅約3.5kmであることが明らかになりました。全長が長かったため、L’LORRIの視野から両端がはみ出ています。残りのデータは長くても1週間で受信できることから、もう少し待てばDonaldjohansonの全体的な形状が明らかになる見込みです。
Lucy探査機による小惑星のフライバイ探査は、日本時間2023年11月2日に最接近した小惑星「Dinkinesh(ディンキネシュ)」以来、2回目です。Dinkineshのフライバイでは衛星として周回する接触二重小惑星が初めて見つかり、後に「Selam(セラム)」と名付けられています。

ただ、後述するようにミッションの主な探査対象は木星のトロヤ群小惑星であり、DinkineshとDonaldjohansonのフライバイ探査は探査機の観測能力を検証するために行われました。
システムテストの意味合いが強かったDinkineshフライバイに対して、今回のDonaldjohansonは“本番”に備えた総合リハーサルにあたり、集中的な観測が行われたといいます。今後は可視光カラーカメラ「MVIC」と赤外線撮像分光器「LEISA」で構成される「L'Ralph」、熱放射分光器「L'TES」によるDonaldjohansonの観測データも数週間にわたって受信・分析される予定だということです。
Lucyとは

Lucyは木星のトロヤ群に属する小惑星の探査を主な目的としたミッションで、2021年10月に探査機が打ち上げられました。ミッションの期間は2033年までの12年間という長期間で、探査対象の小惑星は合計11個に上ります。
木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(同・後方)に分かれて小惑星が分布しています。幾つもの小惑星を一度のミッションで観測するために、Lucy探査機は小惑星を周回する軌道には入らず、小惑星の近くを通過しながら観測するフライバイ探査を繰り返し行います。

木星のトロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前はエチオピアで見つかった有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)にちなんで名付けられました。なお、今回フライバイ探査が行われた小惑星Donaldjohansonの名前の由来は、化石人骨のルーシーを発見した古人類学者ドナルド・ジョハンソン氏です。
2022年10月に第1回地球スイングバイ、2024年12月に第2回地球スイングバイを行ったLucy探査機は、小惑星帯を通過して木星の前方トロヤ群へと向かう公転周期6年の軌道に乗っています。2年後の2027年8月には前方トロヤ群の小惑星「Eurybates(エウリュバテス)」とその衛星「Queta(ケータ)」を皮切りに、ミッションの主目標である木星トロヤ群小惑星のフライバイ探査が始まる予定です。
文・編集/sorae編集部
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