スペースXは2023年4月20日、同社が開発中の大型宇宙船「スターシップ(Starship)」にブースター「スーパーヘビー(Super Heavy)」を結合した2段式形態での初の無人飛行試験を米国テキサス州の同社施設「スターベース」にて実施しました。

軌道打ち上げ用の発射台から初めて飛び立ったスターシップは過去最高となる高度39kmに到達したものの、高度とコントロールを失ったため約4分後に飛行中断システムが作動され、機体は空中で分解して飛行を終えました。【2023年4月21日13時】

【▲ 2023年4月20日の飛行試験で発射台を離れたスターシップ(Credit: SpaceX)】
【▲ 2023年4月20日の飛行試験で発射台を離れたスターシップ(Credit: SpaceX)】

機体全体の再利用が可能なスターシップは、スーパーヘビーと組み合わせることで旅客輸送用のクルー型なら100名を、貨物輸送用のカーゴ型なら100トンのペイロード(人工衛星や貨物などの搭載物)を地球低軌道に打ち上げる能力を備えているとされています。月や火星などへの飛行も想定されており、打ち上げ後にタンカー仕様のスターシップから推進剤を補給することも計画されています。

大きさはスターシップが全長50m・直径9m、スーパーヘビーが全長70m・直径9m。両機を結合した時の全長は120mとなり、アポロ計画で使われた月ロケット「サターンV」の全長110.6mを上回ります。エンジンにはスペースXが開発した液体燃料ロケットエンジン「ラプター」が採用されており、スターシップには6基(大気圏内用3基と宇宙空間用3基)、スーパーヘビーには33基ものエンジンが搭載されています。

【▲ スペースXが開発中の宇宙船「スターシップ」とブースター「スーパーヘビー」。2023年4月15日撮影(Credit: SpaceX)】
【▲ スペースXが開発中の宇宙船「スターシップ」とブースター「スーパーヘビー」。2023年4月15日撮影(Credit: SpaceX)】

これまでにスペースXは無人のスターシップ単体での高高度飛行試験を5回実施しています。2021年5月に実施されたスターシップ「SN15」による飛行試験では機体を喪失することなく無事着陸に成功しました。また、2023年2月にはスーパーヘビーのスタティック・ファイア・テスト(射点でのエンジン点火試験)が実施されており、全33基のエンジンのうち、スターシップを軌道へ到達させるのに十分な推力が得られる31基の点火に成功していました。

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■スーパーヘビーのエンジンが複数停止 高度を失い飛行中断システム作動

20日の飛行試験はスターシップとスーパーヘビーの組み合わせによる初の飛行であり、スターシップ初の宇宙飛行を目指して実施されました。計画ではスターシップは発射から約3分後にスーパーヘビーを分離し、自身のエンジンで飛行を継続。地球を4分の3周ほどしたスターシップは発射77分後に太平洋上で大気圏に再突入し、発射90分後にハワイ沖へ着水する予定でした。メキシコ湾に着水するスーパーヘビーも含めて機体の回収は最初から計画されておらず、データの取得が試験の主な目的でした。

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【▲ 上昇を続けるスターシップ、2023年4月20日の飛行試験にて(Credit: SpaceX)】
【▲ 上昇を続けるスターシップ、2023年4月20日の飛行試験にて(Credit: SpaceX)】

発射40秒前の短いホールド(カウントダウンの一時停止)を挟んだ日本時間2023年4月20日22時33分、スーパーヘビーのエンジンを点火したスターシップは大量の土煙を上げながらゆっくりと上昇を開始。発射から約1分20秒後にはMax-Q(打ち上げ時の負荷が最大となる点)を通過します。

しかし、発射台を離れた時点ですでに複数が停止していたスーパーヘビーのエンジンは、上昇中にも1基、また1基と停止。発射から約3分後には高度39kmに到達したものの、機体は下降に転じてしまいます。そして発射から約4分後、それぞれの飛行中断システムが作動されたスターシップとスーパーヘビーは空中で分解し、両機の組み合わせによる最初の飛行試験を終えました。

【▲ 発射から1分20秒後、スーパーヘビーのエンジン部分を捉えた映像。左下のエンジン稼働状況は5基のエンジン停止を示しているが、映像では6基が停止しているように見える。スペースXのライブ配信から(Credit: SpaceX)】
【▲ 発射から1分20秒後、スーパーヘビーのエンジン部分を捉えた映像。左下のエンジン稼働状況は5基のエンジン停止を示しているが、映像では6基が停止しているように見える。スペースXのライブ配信から(Credit: SpaceX)】

スペースXのライブ配信ではスーパーヘビーのエンジン稼働状況が表示されていましたが、発射から15秒後の時点ですでに3基のエンジンが停止していました。発射30秒後~33秒後にかけてエンジンに近い機体の一部から何かが飛散し閃光も生じた後、発射40秒後には4基目、発射1分2秒後に5基目が停止します。発射1分41秒後には6基目のエンジンが停止しますが、表示上はその10秒後に再び点火したとみられます(ただし、望遠で捉えられた機体の映像では1分20秒頃の時点ですでに6基目のエンジンも停止していたように見えることから、稼働状況の表示が実際の状況を反映できていなかった可能性もあります)。

発射から2分が経った頃になると姿勢が大きく乱れ始め、地上のカメラは機体が空中で回転している様子を捉えていました。計画では発射2分49秒後にスーパーヘビーのエンジンが停止し、その3秒後にスターシップとスーパーヘビーが分離することになっていましたが、両機は分離することなく飛行を終えています。

【▲ 発射から約4分後、飛行中断システムが作動して分解したスターシップ。スペースXのライブ配信から(Credit: SpaceX)】
【▲ 発射から約4分後、飛行中断システムが作動して分解したスターシップ。スペースXのライブ配信から(Credit: SpaceX)】

■マスク氏「多くのことを学んだ」 次の飛行試験は数か月後か

計画されていた90分後のハワイ沖への着水には至らず、結果的にスターシップはスーパーヘビーを分離することなく4分で飛行を終えましたが、前述の通り今回の飛行試験の主な目的はデータを取得することでした。

飛行終了後、スペースXは「こうした試験では、成功は私たちが学んだことからもたらされます。私たちは今日、スターシップと地上システムについて膨大な学びを得ました、これは今後のスターシップの飛行を改善する上で役立ちます」とコメント。同社CEOのイーロン・マスク氏も「数か月後の次の飛行試験に向けて多くのことを学びました」とツイートしています。

スターシップとスーパーヘビーによる初の飛行試験を受けて、欧米の宇宙機関トップも試験実施を祝うとともにコメントを寄せています。アメリカ航空宇宙局(NASA)のビル・ネルソン長官は「歴史上のあらゆる偉大な業績には、ある程度の計算されたリスクが要求されました」「次の飛行試験とその先に期待しています」とツイート。欧州宇宙機関(ESA)のジョセフ・アッシュバッハー長官は「打ち上げは信じられないほどの成功です!」「SpaceXが問題を迅速に解決して、すぐに発射台に戻ると確信しています」とツイートしています。

印象的だったのは、飛行中断システムによってスターシップとスーパーヘビーが空中で分解した時、飛行の様子を見守っていたスペースXの従業員から大きな歓声が上がったことです。人類が地球低軌道に足掛かりを築き、惑星へと探査機を送り出せるほどの技術を手にすることができたのは、困難に立ち向かい、成果に歓喜し、目標に向かって前進を続ける彼らのような人々が力を発揮したからこそなのだということを、改めて強く実感する瞬間でした。このようなポジティブさは宇宙開発に限らず、あらゆる分野で発展の原動力となってきたことでしょう。

前述の通り、スペースXはすでに次の飛行試験を見据えています。スターシップはNASAの有人月面探査計画「アルテミス」の月着陸船「HLS(Human Landing System、有人着陸システム)」として採用されており、同計画初の有人月面着陸が行われる「アルテミス3」ミッションではHLS仕様のスターシップが使用される予定です。アルテミス3の実施は2025年に予定されていますが、スペースXはそれまでに複数回のタンカー打ち上げや宇宙空間での推進剤補給(※)といった課題をクリアし、無人での月面着陸試験に成功しなければなりません。

※…アルテミス計画でスターシップを運用するには打ち上げ後に地球周回軌道で推進剤を再補給する必要がある。

【▲ 月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様のスターシップの想像図(Credit: SpaceX)】
【▲ 月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様のスターシップの想像図(Credit: SpaceX)】

関連:NASAアルテミス計画の月着陸船にスペースXの「スターシップ」が選ばれる(2021年4月19日)

スペースXの社長兼最高執行責任者を務めるグウィン・ショットウェル氏は以前、スターシップによる有人飛行が少なくとも100回以上の無人飛行を重ねた後で行われると予想を述べています。現段階でもスターシップとスーパーヘビーは複数の機体が並行して製造されており、今回の試験から得られた知見を機体や地上側設備などに反映させた後、そう遠くないうちに2回目の飛行試験が試みられるものと思われます。

スペースXは2023年に「ファルコン9」ロケットと「ファルコン・ヘビー」ロケットを合計100回打ち上げる目標を立てていますが、ショットウェル氏は「今年(2023年)ファルコンを100回飛ばせたなら、来年(2024年)はスターシップを100回飛ばしたい。来年は無理だとしても、2025年には100回飛ばせるだろう」とも語っています。同社はスターシップの運用を航空機のそれに近付けたいと考えており、1日に数十回以上の打ち上げも視野に入れているといいます。

地球低軌道への打ち上げ能力がファルコン9(22.8トン)の4倍、ファルコン・ヘビー(63.8トン)の1.5倍に達し、打ち上げコストを従来の100分の1程度にまで減らせるともされるスターシップ。スペースXの2022年の年間打ち上げ回数(61回)を1~2日でクリアするほどのペースで本当に飛行するとなれば、スターシップは宇宙輸送の新時代の幕を開けることになりそうです。

 

Source

  • Image Credit: SpaceX
  • SpaceX - Starship Flight Test

文/sorae編集部

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