NASA、火星の空を飛ぶ初のヘリコプターを「インジェニュイティ」と命名

今年2020年の夏、NASAはマーズ2020ミッションにおける新しい探査車「パーセベランス」を火星に向けて打ち上げる予定です。パーセベランスには人類史上初めて火星の空を飛行する「Mars Helicopter」が搭載されていますが、その名前が「Ingenuity(インジェニュイティ)」に決まったことが発表されました。

■マーズ2020命名キャンペーンの最終候補から選ばれる

初めて火星を飛ぶヘリコプター「インジェニュイティ」を描いた想像図(右)と、インジェニュイティの提案者であるVaneeza Rupaniさん(左)(Credit: NASA/JPL-Caltech/NIA/Rupani Family)

日本語では創意工夫や巧妙さといった意味を持つ「インジェニュイティ」という名前は、アラバマ州の高校生Vaneeza Rupaniさんが提案しました。実はRupaniさんは昨年実施された「マーズ2020」の命名キャンペーンに応募しており、パーセベランスという名前の提案者であるバージニア州のAlexander Matherくんとともに9つの最終候補に選ばれていました。

探査車の名前にはパーセベランスが選ばれましたが、NASAでは人類が初めて地球以外の惑星で動力飛行を実施するヘリコプターにも名前を付けることを検討。NASAのジム・ブライデンスタイン長官によって、残る8つの最終候補のなかからインジェニュイティが選出されました。

インジェニュイティは重さ2kgに満たない小型のヘリコプターです。電力で駆動する二重反転式のローターを備えていて、1回あたり90秒間、高度4m前後を最大300mほど飛行する能力を備えています。ローターの上には太陽電池が搭載されており、充電することで繰り返し飛ぶことが可能。地球と火星を結ぶ通信では無視できない時差が生じるため、地球からの指令を受け取ったインジェニュイティは離陸から着陸まで自律的に飛行します。

パーセベランスの車体下面に搭載されて火星へと運ばれるインジェニュイティは、来年2021年2月19日朝(日本時間)に予定されている着陸から2か月半ほどが経った5月初旬に地面へと降ろされ、30ソル(1ソルは火星の1日)に渡る飛行テストを開始します。搭載されたカメラを使って地上の撮影も行う予定ですが、最大の目的は火星における動力飛行の実施そのもの。火星でヘリコプターが飛べることを実証し、将来のミッションにおけるヘリコプターを活用した立体的な探査への一歩を記します。

応募時のエッセイにおいて「創意工夫(インジェニュイティ)は偉業の達成を可能とするものであり、私たちの視野を宇宙の隅々まで広げることを可能とするものでもあります」と記したRupaniさん。空を飛ぶことにあこがれ続けた人類が地球における動力飛行を実現させてから100年余り、その翼は火星の空でも羽ばたきつつあります。

火星探査車「パーセベランス」に搭載されたヘリコプター「インジェニュイティ」(Credit: NASA/JPL-Caltech)

 

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech/NIA/Rupani Family
Source: NASA/JPL
文/松村武宏