太陽と惑星の重力によって安定する点である「ラグランジュ点」に存在する小惑星を「トロヤ群」と呼びます。火星ではトロヤ群小惑星がこれまでに16個発見されていましたが、その大半は火星に従うように公転しているように見える「L5トロヤ群」に属しており、火星に先行して公転しているように見える「L4トロヤ群」に属する小惑星はこれまで1個しか発見されていませんでした。

マドリード・コンプルテンセ大学のRaul de la Fuente Marcos氏などの研究チームは、昨年発見されたばかりの小惑星「2023 FW14」が、観測史上2番目となる火星のL4トロヤ群小惑星であることを明らかにしました。2023 FW14が火星のトロヤ群である期間はかなり短いと予測されていることから、火星のトロヤ群小惑星全体の起源に迫る重要な手掛かりとなります。

【▲ 図1: 火星の近くにある小惑星のイメージ (Image Credit: Gabriel Pérez Díaz) 】
【▲ 図1: 火星の近くにある小惑星のイメージ(Credit: Gabriel Pérez Díaz)】

■ラグランジュ点に存在する「トロヤ群小惑星」

太陽と惑星の重力について力学的に解析すると、重力が釣り合って安定する点が5つ現れます。これを「ラグランジュ点」と呼びます。このうち、太陽・惑星・ラグランジュ点の3点で正三角形を描くことができる2つの点を「L4ラグランジュ点」および「L5ラグランジュ点」と呼びます。

L4とL5はラグランジュ点の中でも特に安定しているため、太陽や惑星と比べて極めて小さい小惑星のような天体が長期的に安定して存在すると考えられています。同じようなアイデアにもとづき、スペースコロニーを配置するという構想やSF作品を通じて、ラグランジュ点という用語を聞いたことがある方もいるかもしれません。

惑星からラグランジュ点にある小惑星を眺めると、惑星とほぼ同じ公転軌道を、見た目の上では同じ距離を保ちながら先行あるいは後続して進むように見えます。先行して見える小惑星はL4、後続して見える小惑星はL5に位置します。このような性質を持つ小惑星は木星で初めて見つかり、トロイア戦争の英雄に因んでアキレスと命名されていた事から、現在ではこのグループを「トロヤ群」と呼んでいます。

【▲ 図2: 太陽と惑星の重力が釣り合って安定するラグランジュ点は全部で5つあります。L4とL5の2点は特に安定していて、ここに存在する小惑星のグループをトロヤ群と呼びます。 (Image Credit: EnEdC) 】
【▲ 図2: 太陽と惑星の重力が釣り合って安定するラグランジュ点は全部で5つあります。L4とL5の2点は特に安定していて、ここに存在する小惑星のグループをトロヤ群と呼びます(Credit: EnEdC)】

火星ではこれまで16個のトロヤ群小惑星が発見されており、これは太陽系の全惑星でも3番目の多さです。ただし、そのうちの15個がL5トロヤ群小惑星であり、これまでにL4トロヤ群小惑星は1999年に発見され、2003年にL4トロヤ群に属することが判明した121514番小惑星「1999 UJ7」の1個しか見つかっていませんでした。

なぜこれほど小惑星の数に極端な差があるのかは謎ですが、部分的な回答として、L5トロヤ群小惑星のいくつかは同じ天体に由来する破片であるという仮説があります。火星のトロヤ群小惑星の表面の色 (スペクトル分類) を観測した結果、5261番小惑星「エウレカ」と似た色を持つL5トロヤ群小惑星がいくつも見つかりました。エウレカはL5トロヤ群でも最大の小惑星(約1.9km)であることから、天体衝突や分裂(※)によってばら撒かれた破片がL5トロヤ群小惑星として公転し続けているためであると考えることができます。

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※…小さく不規則な形状をした天体は、太陽放射によって自転周期が変化し、これを「YORP効果」と呼びます。YORP効果のシミュレーションでは自らが分裂するほど自転が加速されることがあります。

■「2023 FW14」は観測史上2番目の火星L4トロヤ群小惑星

de la Fuente Marcos氏らの研究チームは、昨年発見されたばかりの小惑星「2023 FW14」に注目し、力学的な解析を行いました。2023 FW14は2023年3月18日に発見され、4月15日に現在の仮符号と詳しい公転軌道の値が公表されました。公転軌道の値は、ちょうど事前にシミュレーションされていた火星のL4トロヤ群の値と一致するため、トロヤ群小惑星の候補として上がりました。

de la Fuente Marcos氏らは、2023 FW14が本当に火星のトロヤ群小惑星であるかどうかを証明するための力学的なシミュレーションを実行しました。また、スペインのラ・パルマ島に設置された「カナリア大望遠鏡」で2023 FW14を観測し、より詳しい性質を明らかにすることを試みました。

【▲ 図3: 2023 FW14を含む、確認された火星のトロヤ群小惑星の一覧。 (Image Credit: 彩恵りり) 】
【▲ 図3: 2023 FW14を含む、確認された火星のトロヤ群小惑星の一覧(Credit: 彩恵りり)】

シミュレーションの結果、2023 FW14は真に火星のL4トロヤ群小惑星であることが判明しました。2023 FW14は21年ぶりに追加された、観測史上2番目の火星のL4トロヤ群小惑星であり、火星のトロヤ群は全体で17個となりました。

また、観測された表面の色などの性質から、2023 FW14はXc型というタイプに属しており、同じくL4トロヤ群小惑星である1999 UJ7と似ていることが分かりました。さらに、色から推定される反射率と見た目の明るさを元に、2023 FW14の推定直径は318m(119~811m)と計算されました。このことから2023 FW14はL4トロヤ群のみならず、火星のトロヤ群全体でもかなり小さい小惑星である可能性があります。

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■新発見による新た謎とその解決策

【▲ 図4: 2023 FW14の火星に対する位置の長期的な変化予測。+60度付近の狭い範囲にグラフが描かれている期間が、2023 FW14がL4トロヤ群に属することをいみしています。約100万年前までと約1000万年後からはグラフが激しく上下動しており、長期的には不安定であることが分かります。 (Image Credit: R. de la Fuente Marcos, et al.) 】
【▲ 図4: 2023 FW14の火星に対する位置の長期的な変化予測。+60度付近の狭い範囲にグラフが描かれている期間が、2023 FW14がL4トロヤ群に属することをいみしています。約100万年前までと約1000万年後からはグラフが激しく上下動しており、長期的には不安定であることが分かります。(Credit: R. de la Fuente Marcos, et al.)】

ただし、この研究の結果は新たな謎を生むことにも繋がりました。2023 FW14の現在の軌道は不安定であり、火星のトロヤ群に属する期間は短いと推定されるためです。今回のシミュレーションでは、2023 FW14は約100万年前から火星のトロヤ群小惑星となり、約1000万年後までには現在の軌道から外れてしまうと見られています。また、2023 FW14は火星トロヤ群小惑星としては最も楕円形の軌道を持っています。これだけを見れば、2023 FW14は一時的に火星の重力で捕獲された小惑星である可能性が高いことになります。

一方で、2023 FW14の起源かもしれない1999 UJ7の軌道は数十億年に渡って相当安定しており、太陽系誕生時に火星と同じ公転軌道上で成長した微惑星の名残である可能性もあります。その場合、1999 UJ7は原始的な火星トロヤ群小惑星であることになります。しかし、類似している2023 FW14が原始的な火星トロヤ群小惑星ではなく、捕獲された “他人” であるならば、なぜお互いにこれほど似ているのかという疑問が生じます。

実は、L4トロヤ群の1999 UJ7が原始的な火星トロヤ群小惑星であるという説は、2023 FW14の発見以前から主張されており、同時に大きな謎となっていました。L5トロヤ群のエウレカや、それと似ているいくつかのL5トロヤ群小惑星は、1999 UJ7と同様に軌道が相当安定していることが分かっています。その一方で、1999 UJ7とエウレカはお互いには似ていません。原始的な火星トロヤ群は本来ならば同じ環境と材料で形成されたはずであり、本来は似ているべきであることを考えると、これは矛盾していると言えます。

今回、新たなL4トロヤ群として発見された2023 FW14の存在を加えることで、de la Fuente Marcos氏らはエウレカこそが真に原始的な火星トロヤ群小惑星であると考えています。エウレカはカンラン石を豊富に含むタイプ(SI型)ですが、これは(火星とは起源が異なる)小惑星帯の小惑星では少数派です。

一方で、1999 UJ7は小惑星帯によくみられるタイプのXc型です。今回の観測で2023 FW14の分類が判明し、また1999 UJ7よりも精度の高い観測データが得られたことで、1999 UJ7と2023 FW14は火星の誕生時とは異なる起源を持つ、つまり後の時代になって火星に捕獲された小惑星の可能性が高いことが分かります。

では、2023 FW14と1999 UJ7の関係性はどうなのでしょうか?この研究以前にも、1999 UJ7は元々は火星の公転軌道を横断する小惑星であり、約40億年前に火星に捕獲されたという説がありました。今回発見された2023 FW14も、1999 UJ7と同じタイミングで捕獲されたか、もしくは1999 UJ7が捕獲された後に分裂した時の破片なのかもしれません。2023 FW14が1999 UJ7と似ていることとL4トロヤ群に属する約1000万年という期間は同時捕獲説と分裂説のどちらでも説明可能なため、これは新たな注目ポイントとなります。

この説が正しいのかはまだ分かりませんが、いずれにしても2023 FW14は火星トロヤ群に関する大きな謎を解くカギとなるでしょう。

関連記事: 地球型惑星の初期の歴史を知らせる火星のトロヤ群 月の「生き別れの兄弟」である可能性 (2020年11月5日)

ちなみに、2023 FW14と良く似た仮符号を持つ小惑星「2023 FW13」は、地球の準衛星であることが判明しています。小惑星の仮符号は機械的に割り当てられていて、似ているのは全くの偶然なのですが、大量に発見され続けている小惑星のなかでもそれぞれ滅多にない性質を持つ2つの小惑星の仮符号がたまたま似ているという意味では面白い偶然だとも言えます。

関連記事: 地球の新たな準衛星「2023 FW13」を発見 西暦3700年まで存在する “月のような天体” (2023年4月27日)

 

Source

文/彩恵りり

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