
(引用元:カナダ宇宙庁(CSA))
こちらは、NASAの火星探査車「キュリオシティ(Curiosity)」のロボットアーム先端に取り付けられた「アルファ粒子X線分光計(APXS)」のセンサーヘッドです。ルービックキューブほどの大きさで、岩石や土壌に含まれる元素を調べます。

この装置につながる測定原理は、59年前に月面で初めて使われました。
月の「静かの海」で始まった地球外での化学分析
日本時間1967年9月8日16時57分01秒、NASAの月探査機「サーベイヤー5号(Surveyor 5)」が、フロリダ州のケープカナベラルから打ち上げられました。3日後の9月11日、サーベイヤー5号は月の「静かの海」の南東部に軟着陸します。飛行中にヘリウム圧力調整器からの漏れという致命的になりかねないトラブルに見舞われましたが、地上の技術者が新たな降下手順を組み立て、着陸を成功させた機体でもあります。

サーベイヤー5号には「アルファ散乱実験装置(Alpha-Scattering Instrument)」が搭載されていました。アルファ粒子を放出する放射性同位体「キュリウム242」を線源として月面を照射し、跳ね返ってきたアルファ粒子と、核反応で生じた陽子を検出して元素を調べる装置です。この方式は後にX線による分析機能が加えられ、APXSへと発展しました。
この装置による測定は、地球以外の天体表面で行われた初の土壌化学分析となりました。測定データから、月面物質の半分以上を酸素が占め、ケイ素やアルミニウムなども含まれることが判明。その化学組成は、地球の玄武岩に似ていると判断されました。
受け継がれていく装置
サーベイヤー5号のアルファ散乱実験装置を開発した研究者の一人、シカゴ大学のタナシス・エコノモウ(Thanasis Economou)氏は、約30年後、火星探査機「マーズ・パスファインダー(Mars Pathfinder)」のAPXS開発にも携わりました。月で実証された測定技術と開発経験が、火星探査へ引き継がれたのです。
この系統の元素分析装置は、「サーベイヤー6号(Surveyor 6)」「サーベイヤー7号(Surveyor 7)」、ソ連の「フォボス1号(Phobos 1)」「フォボス2号(Phobos 2)」、火星探査車「スピリット(Spirit)」「オポチュニティ(Opportunity)」、彗星探査機「ロゼッタ(Rosetta)」の着陸機「フィラエ(Philae)」、キュリオシティ、インドの月探査機「チャンドラヤーン3号(Chandrayaan-3)」の月面探査車などに搭載されてきました。
なお、火星探査車「パーシビアランス(Perseverance)」にAPXSは搭載されていません。代わりに、岩石表面の元素分布をより細かく調べられる「惑星岩石化学X線分析装置(PIXL)」が採用されています。
キュリオシティにAPXSが搭載されたのは、岩石や土壌の元素組成をその場で調べ、周辺の地質を把握するとともに、機体内部の分析装置で詳しく調べる試料を選ぶためです。過去の火星探査車が取得したデータと比較できることも利点です。
2026年2月1日時点で、キュリオシティのAPXSは1761個の試料を分析し、約4000件もの分析結果を地球へ送信しています。サーベイヤー5号で実証された測定原理は、研究者や技術者による改良を重ねながら、約60年後の現在も火星探査を支えています。
編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- NASA - Surveyor 5
- NASA - 50 Years Ago, Surveyors Pave The Way To The Moon
- CSA - The APXS instrument: Canada's contribution to Curiosity
- NASA - APXS for Scientists










