地球から数光年以上も遠くにある太陽系外惑星の表面の様子はどうなっているのでしょうか? これは惑星科学における究極の問いです。惑星を直接撮影(直接撮像)した例はいくつかありますが、文字通りの点にしか写らないため、このままでは何も知ることはできません。
東京大学、および宇宙科学研究所の桒田敦基氏と河原創氏の研究チームは、この難題に挑戦する手法「ハイブリッドSOT」を開発しました。そのテストケースとして、地球から約150万km離れた位置にある衛星「DSCOVR」の観測データを分析し、地球の大陸配置の復元を試みました。
今回のケースは、太陽系外惑星とは条件こそ異なりますが、今後の本番に向けての重要なテストケースとなるはずです。
太陽系外惑星の表面の様子を見ることはできるのか?

太陽系の外にある惑星、特に地球と似たタイプの惑星はどのように見えるのでしょうか? 太陽系外惑星が望遠鏡によって直接撮影された例はいくつかありますが、この写真を見ても外観を知ることはできません。惑星までの距離が余りにも遠いため、文字通りの点にしか写らないからです。このため、惑星の外観を知るには一工夫が必要です。
例えば地球は、陸地と海洋という2つの大きな領域に分けられ、陸地については植物の多さによっても色味が異なります。また、地球の大陸と海洋の割合は、地球をどの方向から見ているかによっても異なります。このような違いは、単に色や見た目の違いだけでなく、反射した光の成分(スペクトル)の違いとしても現れます。
では、もしも地球を遠く離れた場所から観測した場合はどうなるでしょうか? 地球は自転をしているので、時間を置いて何回も撮影すれば、そのたびに向けている面が違うため、異なる光の成分を得られるはずです。時間をかけて積み重ねた観測データのスペクトルデータを分析すれば、地球の大陸配置や植生を復元できる可能性があります。
実際、NASA(アメリカ航空宇宙局)は、2040年代に宇宙望遠鏡「HWO(Habitable Worlds Observatory / 直訳すれば “居住可能世界観測所”)」の運用を計画しています。望遠鏡の主目的として、地球型惑星の表面の様子を撮影することが含まれており、場合によっては植生という形で地球外生命体の痕跡を見つけることができるかもしれません。
ただし、表面の様子を探る上ではいくつもの技術的な課題があります。大きなものの1つとして、惑星表面を覆う雲の存在です。雲は常に変化する上に、陸地や海洋を覆い隠してしまいます。雲の反射光が混ざった状態で分析を行えば、陸地という変化しない表面の構造との区別が付かず、表面の様子の解釈に影響を及ぼしてしまう恐れがあります。
惑星表面の復元を目指す「ハイブリッドSOT」とは
東京大学、および宇宙科学研究所の桒田敦基氏と河原創氏の研究チームは、「ハイブリッドSOT」と呼ばれる手法を開発し、そのテストケースとして、地球の大陸配置を復元する試みを行いました。なお桒田氏は、アストロナビゲーターの「リコット」としても活動しています。
ここでいうSOTとは「Spin-Orbit Tomography」のことです。惑星の自転と公転によって時々刻々と変化するスペクトルデータを用いて、惑星の表面の様子を復元する手法です。SOTを使えば、時間経過によるデータの変化をもとに、惑星の表面の様子という答えを得ることができます。
ただし、従来のSOTでは1つの波長しか得られないため、得られる画像もモノクロとなってしまいます。これでは大陸と海洋の区別や、植生の有無を知ることに限界があります。
この弱点を乗り越えるために、複数の波長成分(Unmixing)と、動的成分を1つ加えたものがハイブリッドSOTです。特に動的成分は、雲のように変化していく特徴と、大陸のように変化しない特徴を見分けるために重要です。

今回の研究では、このハイブリッドSOTという手法が実際に上手く行くのかを確かめるため、地球の模型による試験を経た後、衛星による実物の地球の観測データの分析を行いました。分析対象となったのは、NOAA(アメリカ海洋大気庁)が運用する「DSCOVR」のデータです。DSCOVRは太陽観測衛星ですが、地球の昼間側も継続的に観測しています。そして観測位置は地球から約150万km離れているため、遠くから惑星を観測した状況を部分的に再現しています。
念の為に注意しないといけないのは、地球とDSCOVRの約150万kmという近さです。DSCOVRは地球の様子を円盤状に撮影できますが、太陽系外惑星は数千万倍も遠くにあるため、点にしか写りません。今回は太陽系外惑星を観測した状況を再現するため、DSCOVRが観測した地球のデータを積分し、点として取り扱っています。このため、地球を撮影した画像そのままから大陸を再現したのではなく、点のデータから大陸を再現することになり、太陽系外惑星の観測のテストケースとなります。
テストケースとしての地球の大陸配置の復元に成功

今回の研究では、2016年から2017年にかけての観測データの4分の1にあたる2435枚分の観測データを元に分析を行いました。その結果は上の画像にあるように、私たちが知る地球の大陸配置を、部分的ながらも描き出しています。

今回の研究で最も肝心となるのは雲の分布ですが、個々の画像データからは、例えばアマゾンの雨季と乾季、東アジアの曇天、北アメリカの晴天など、低解像度ながらも雲の分布が読み取れます。このような時間変化のある成分を割り出すことで、変化しない大陸と海洋の成分を割り出します。また、波長のわずかな違いから、砂漠のように地面が剥き出しになっているのか、それとも植物が繁茂しているのかも知ることができます。
今回は太陽系外惑星の表面の様子を画像化するテストケースであるため、限界もあります。視覚的に分かりやすいのは、北極・南極付近が他の場所と比べて不正確に描かれていることです。これは、赤道付近よりも角度が付いているために観測データが不足しているという、元データの特性によるものです。
また、サハラ砂漠やチリ周辺の乾燥地帯の再現度にも限界があります。さらに今回は植生と地面の区別を波長の差で行いましたが、これは植生や地面に対応する波長が事前に分かっていることによる選択であることに注意が必要です。もしも太陽系外惑星に植物のような生物がいたとして、同じような波長成分を持っているとは限らないからです。
とはいえ、課題が見えているということは、そこには改善の余地があるということになります。例えば今回の研究では、雲の正確な分布を得るために使用する数学的な手法について、改善可能な項目が見つかりました。これは改善の一例と言えるでしょう。今後も研究を続ければ、太陽系外惑星の表面を知るという大きな目標の達成にも繋がるでしょう。
ひとことコメント
この技術が応用されれば、今は決してたどり着けない太陽系外惑星の表面の様子がわかるかもしれないよ!(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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