宇宙から地球を見ると、植物に広く覆われた陸地が緑色に見えます。この緑色は植物の光合成を支えるクロロフィル(Chlorophyll、葉緑素)と呼ばれる物質と関係があります。植物の葉などに含まれているクロロフィルは太陽光を吸収する役割を果たしていますが、緑色の光は吸収されにくく、葉から漏れ出た緑色光を私たちの目が捉えることで植物は緑色に見えるのです。

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙天気観測衛星「DSCOVR(ディスカバー)」の光学観測装置「EPIC」で2024年5月5日に撮影された地球(Credit: NASA EPIC Team)】
【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙天気観測衛星「DSCOVR(ディスカバー)」の光学観測装置「EPIC」で2024年5月5日に撮影された地球(Credit: NASA EPIC Team)】

しかし、植物のように光合成を行う生物が繁栄している太陽系外惑星も緑色に見えるのかというと、そうとは限らないようです。コーネル大学の博士研究員Lígia Fonseca Coelhoさんを筆頭とする研究チームは、光合成生物が存在する系外惑星の色は地球とは異なる可能性を示した研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文はMonthly Notices of the Royal Astronomical Society(王立天文学会月報)に掲載されています。

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私たちの身近な光合成生物は植物ですが、地球上の光合成生物はそれだけではありません。たとえば紅色細菌と総称される紅色硫黄細菌(Purple sulfur bacteria)や紅色非硫黄細菌(Purple non-sulfur bacteria)は植物のクロロフィルと同様に太陽の光エネルギーを吸収するバクテリオクロロフィル(Bacteriochlorophyll)を持っていて、光合成を行う光合成細菌の一種として知られています。

ただし研究チームによると、可視光線の青色光や赤色光を吸収しやすい植物のクロロフィルに対して、バクテリオクロロフィルは低エネルギーの赤色光や赤外線を吸収しやすいといいます。ここでCoelhoさんが投げかけるのは「これらの細菌が、緑色をした植物や藻類などと競合していなかったらどうなっていたでしょうか」という疑問です。系外惑星は太陽よりも小さくて軽い赤色矮星(M型星)の周囲でも数多く見つかっていますが、赤色矮星には可視光線よりも赤外線を強く放つという特徴があります。地球の植物は太陽光の下で進化してきましたが、赤色矮星が空に輝く系外惑星の環境は赤外線を利用する生物にとって有利に働くかもしれません。

【▲ 培養した細菌のサンプルを手にするLígia Fonseca Coelhoさん(Credit: Ryan Young/Cornell University)】
【▲ 培養した細菌のサンプルを手にするLígia Fonseca Coelhoさん(Credit: Ryan Young/Cornell University)】

さまざまな条件と雲の量を備えた地球に似た惑星のモデルを作成して分析を行った研究チームは、特に赤色矮星を公転する系外惑星では可視光線の赤色光や赤外線を利用する紅色細菌のような生物が優勢になる可能性があり、強い色のバイオシグネチャー(生命存在の兆候)を生成すると結論付けました。地球の紅色細菌と全く同じ生物が系外惑星にも存在するとは限りませんが、研究チームは紅色細菌に含まれるさまざまなカロテノイドを念頭に、系外惑星の表面は赤色・茶色・オレンジ色・黄色といった幅広い色で着色される可能性があると指摘しています。

今回の結果は単に系外惑星の見た目を予測するだけに留まりません。地球の植物には波長700nm前後の光をよく反射する性質があります。この波長はレッドエッジ(Red edge)と呼ばれていて、地球観測衛星を使って農地や森林の状態を知る上で利用されています。系外惑星の探査でも植物の存在を示すバイオシグネチャーとしてレッドエッジを利用できる可能性が指摘されていましたが、今回の研究ではレッドエッジ以外の波長でもバイオシグネチャーを検出できる可能性が示されたことになります。

1990年にアメリカ航空宇宙局(NASA)の無人探査機「Voyager 1(ボイジャー1号)」が撮影した点のような地球の姿は「Pale Blue Dot(ペイル・ブルー・ドット、淡く青い点)」として知られていますが、今回の研究でシミュレートされた惑星についてコーネル大学は「Pale Purple Dot(ペイル・パープル・ドット)」と表現しています。今後の系外惑星探査ではレッドエッジに限らず、より幅広い波長のバイオシグネチャーを探し求める観測が行われるようになるかもしれません。

 

Source

  • Cornell University – In search for alien life, purple may be the new green
  • Coelho et al. – Purple is the new green: biopigments and spectra of Earth-like purple worlds (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)

文・編集/sorae編集部

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