3月1日より、いよいよ来年新卒の就職活動シーズンが始まります。そんな中、近年話題に上がることの多い「宇宙」に関する仕事をしたいと考える方もいるかもしれません。ただ、宇宙の仕事と言っても、どんな会社がどんな仕事をしているかわからない、という方も多いでしょう。そこで今回は、宇宙開発の業界について解説してみましょう。
なお、イメージしやすいようにいくつかの具体的な企業名を挙げますが、あくまでも代表的な企業の例に過ぎません。それぞれの分野で数多くの企業が活躍していることは言うまでもありません。
宇宙開発業界のニーズは「科学」と「利用」
宇宙開発にお金を使うニーズは、大きく分けて「科学」と「利用」があります。
宇宙観測、有人実験は「科学」
科学とは、宇宙の星を研究したり、宇宙から地球を研究したりすることです。また宇宙ステーションへ宇宙飛行士が行って実験を行うことも科学に含まれます。
科学研究は短期間では利益につながりにくいので、その費用のほとんどは税金で賄われています。文部科学省や経済産業省から、宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめとする国立研究開発法人や大学などへ予算が供給されるのが主要なルートです。
衛星通信や天気予報で「利用」
もうひとつの柱である利用は、既に利用方法が確立され、それによってサービスを提供する産業が利益を上げているようなもののことです。
宇宙利用で利益を上げている産業の主役は、衛星通信です。日本ではスカパーJSATが最大の事業者で、10機以上の通信衛星を運用して通信サービスを提供しているほか、もちろん自社の衛星放送「スカパー!」にも自前の衛星を使用しています。
もうひとつの利用は、気象衛星を使った天気予報、地球観測衛星を使った災害監視や安全保障情報の収集などです。これらも日本の経済や安全に欠かせない重要な情報利用ですが、直接の利益は上げにくいため、気象庁や内閣官房などの官庁が税金で運用しています。道路などと同じ、公共事業によるインフラ整備と考えればよいでしょう。
技術を提供する企業
さて、ここまでに解説したニーズを満たすために、製品やサービスを提供する技術を持った数多くの企業が活躍しています。それらを大きく分けるとすると「重工」「電機」「サービス」に分類できるでしょう。
ロケットなどを製造する「重工」
重工メーカーと言えば、造船や航空、発電所や工場設備など、大規模な機械を製造する総合メーカーですが、その中に宇宙部門があります。H-IIAロケットは三菱重工業、イプシロンロケットはIHIが中心になって製造しています。
ロケットはかつてはJAXAなど国の研究機関が開発し、重工は製造を委託される立場でしたが、徐々に重工側の役割が増えてきています。H-IIAロケットでは開発が一段落したあと三菱重工業に移管され、打ち上げ作業もJAXAではなく三菱重工業が行うようになっています。
衛星などを製造する「電機」
人工衛星は通信装置やデジタルカメラなど、電子機器の集合体です。日本では三菱電機とNECが主要なメーカーで、どちらも総合電機メーカーの中に宇宙部門がある、という点で重工と似ています。
電機メーカーは人工衛星本体のほか、人工衛星を管制する地上設備、ロケットの電子部品など宇宙開発全体で欠かせないメーカーです。なお、重工も人工衛星に搭載するエンジンや地上試験設備などを製造しているなど、電機メーカーと重工の境界線は明確ではありません。
技術を提供する「サービス」
宇宙産業には、メーカーとして物を作ることだけでなく、技術的な支援やサービスをするのを主な仕事にしている技術サービス企業も数多くあります。
ひとつは、JAXAなどの宇宙開発の技術支援を中心とした企業です。JAXAの衛星管制や試験設備などは、こういった企業の業務委託で運用されていることが少なくありません。宇宙技術開発(SED)やAESなど、一般向けビジネスの企業ではないBtoB企業なので、知名度は高くありませんが、重工や電機と違って宇宙事業が会社の一部門ではなく主要業務なので、民間企業の中では「入社すると宇宙担当になる可能性が高い」企業と言えるでしょう。
もうひとつは、技術コンサルティング企業やシンクタンク、商社といった企業です。これらの企業にも宇宙部門があり、宇宙開発でも企画やプロジェクト管理などで重要な役割を果たしています。
「下町ロケット」企業も多数
そして、これらの企業に部品やサービスと提供して宇宙開発に参画している企業も数多くあります。こういった企業の多くは宇宙開発専業というわけではなく、機械部品や材料、ソフトウェア開発などそれぞれの得意分野で宇宙開発を支えています。
宇宙業界のこれから
ここまで見てきてお気付きかもしれませんが、日本の宇宙業界はその売り上げの多くを、税金に頼っています。商業的な売り上げで成り立っているのは、衛星通信ビジネスぐらいです。そこで今後は、宇宙事業の商業化が重要になってきます。
宇宙利用サービスの拡大
ひとつの方法は、民間で宇宙を利用する商業サービスを生み出していくことです。たとえば宇宙から撮影された地上の写真を見るサービスは既にありますが、指定の日時に指定の場所を撮影することが安価にできれば、新しいサービスになります。
こういったアイデアは既存の宇宙関連企業だけでなく、異業種にこそアイデアがあるかもしれません。宇宙業界ではなかった企業が、宇宙業界地図を塗り替える可能性を秘めています。
宇宙開発の輸出
衛星通信企業が利用する衛星やその打ち上げロケットは、国際的なビジネスで取引されていますが、欧米露の企業が圧倒的で、近年は中国も実績を伸ばしています。
そこで、日本製の衛星を輸出したり、海外の衛星を日本のロケットで打ち上げたり、あるいは衛星とロケットをセットで売り込むといったビジネスが重要になっています。政府の宇宙計画はJAXAなど政府機関が企画してきましたが、輸出ビジネスでは企業が独自に衛星を開発したりして、商社などと一緒に営業をしています。
ベンチャーの成長
電子技術の進歩で、小型で低価格の衛星が開発されるようになりました。大型の衛星と同じ性能とはいきませんが、性能を抑える代わりに価格を桁違いに安くできるので、特定サービスの専用衛星を打ち上げたり、多数の衛星を同時に飛ばすなど新しい用途を生み出すことができます。
こういった「小さな宇宙開発」を専門に手掛けるベンチャー企業も始まっています。超小型衛星を開発するアクセルスペース、超小型衛星用のロケットを開発するインターステラテクノロジズなどです。現在のところ、実用機を開発して実績を作ろうとしている段階ですが、将来は大きく成長できる可能性があります。
宇宙企業に就職するか、就職先を宇宙企業にするか
いかがでしょうか。宇宙開発という業界の仕組みがおわかりいただけたかなと思います。
JAXAなど宇宙開発に特化した機関や企業以外では、宇宙開発は事業の一部でしかないので、就職できても宇宙の仕事をできるとは限りません。しかし、今やIT業界でなくてもITと無縁な企業は少ないのと同じで、これからは宇宙をうまく利用することも企業の成長と大きく関係する時代になるでしょう。宇宙に関心のある学生の皆さんが、宇宙を使って日本を元気にする仕事ができるよう、健闘を祈ります。