【更新】スペースX、新型ロケット「スターシップ」第8回飛行試験を日本時間3月4日にも実施へ

アメリカの民間企業SpaceX(スペースX)は2025年2月25日、同社が開発中の新型ロケット「Starship(スターシップ)」による無人での第8回飛行試験に向けて準備を進めていると発表しました。直近の打ち上げ目標日時は日本時間2025年3月4日8時30分(アメリカ中部標準時2025年3月3日17時30分)です。

【最終更新:2025年2月28日11時10分】打ち上げ目標日時の変更に伴い記事タイトルと本文を更新しました。

Starshipとは?

2025年1月の第7回飛行試験で打ち上げられたSpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」(Credit: SpaceX)
【▲ 2025年1月の第7回飛行試験で打ち上げられたSpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」(Credit: SpaceX)】

Starshipは1段目の大型ロケット「Super Heavy(スーパーヘビー)」と2段目の大型宇宙船「Starship」からなる全長123mの再使用型ロケットで、打ち上げシステムとしてもStarshipの名称で呼ばれています。液体メタンと液体酸素を使用する「Raptor(ラプター)」エンジンをStarship宇宙船は6基(大気圏内用3基・真空用3基)、Super Heavyは33基搭載しています。

SpaceXによると、両段を再使用する構成では100~150トンのペイロード(搭載物)を打ち上げ可能。2段目のStarship宇宙船は単体でも準軌道飛行(サブオービタル飛行)が可能で、地球上の2地点間を1時間以内に結べるとされています。

また、Starship宇宙船はアメリカが主導する月探査計画「Artemis(アルテミス)」の月着陸船「HLS(Human Landing System、有人着陸システム)」のひとつとしても採用されており、NASA=アメリカ航空宇宙局によれば同計画初の有人月面着陸を行う「Artemis III(アルテミス3)」ミッションでHLS仕様のStarship宇宙船が使用される予定です。

月に着陸した「Starship HLS(スターシップHLS)」の想像図
【▲ 月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様のStarship宇宙船「Starship HLS(スターシップHLS)」の想像図(Credit: SpaceX)】

SpaceXはアメリカ・テキサス州ボカチカの同社施設「Starbase(スターベース)」を拠点にStarshipの開発を進めていて、これまでにSuper Heavyブースターも含めたStarship打ち上げシステム全体の飛行試験を2023年4月から合計7回実施しています。

日本時間2025年1月17日に実施された直近の第7回飛行試験では、第5回飛行試験以来2回目となるSuper Heavyブースターの発射台帰還に成功しました。一方、改良が施された新世代のStarship宇宙船は機体後方で火災が発生し、6基のうち5基のエンジンが次々とシャットダウンして推力を失い軌道に到達できず、最終的に飛行中断システムが自律的に作動して機体は失われました。

SpaceXによると、火災は液体酸素タンクの底部と機体後方の熱シールドとの間にある非与圧空間で発生した推進剤の漏洩によって引き起こされたとみられていますが、根本的な原因として可能性が最も高いのは想定以上の振動による推進システムへの負荷増大だと考えられています。Starship宇宙船の飛行中断は2023年11月の第2回飛行試験以来です。

Starship宇宙船は宇宙空間でのペイロード放出テストなどを予定

新型ロケット「Starship(スターシップ)」第8回飛行試験を前に実施されたStarship宇宙船の地上燃焼試験の様子(Credit: SpaceX)
【▲ 新型ロケット「Starship(スターシップ)」第8回飛行試験を前に実施されたStarship宇宙船の地上燃焼試験の様子(Credit: SpaceX)】

SpaceXによると、第8回飛行試験では前回に続きアップグレードされたStarship宇宙船が飛行し、初のペイロード放出テストなどが試みられます。

新世代のStarship宇宙船では機体の前後に合計4つ備わっているフラップのうち前方2つのサイズが縮小し、取り付け位置も機体先端側・耐熱タイルの反対側(背面側)に少し移動されています。前方のフラップは過去の飛行試験において大気圏再突入時の高熱で損傷していましたが、この変更によって熱の影響を受けにくくなると期待されています。

再突入時の熱から機体を保護する耐熱タイルは、破損や脱落に備えたバックアップ用の保護層を含む新世代のタイルを採用。タイルの一部は機体のストレステストの一環として取り外される他に、代替材料のテストとして複数の金属製タイル(能動的な冷却機能を備えたものを含む)も取り付けられています。加えて、Super Heavyブースターと同様にStarship宇宙船を発射台に帰還させる上で必要となる機体側面の構造物も取り付けられ、耐熱性能がテストされます。

機体の内部も改良されており、推進剤の25%増量や真空用Raptorエンジンの新しい燃料供給システムを含む推進システムの再設計を実施。発射台への帰還や軌道上での燃料移送に備えてアビオニクス(航空電子機器)も一新されて機能や冗長性が追加されています。

また、前回の飛行中断に関する調査の一環として、SpaceXはStarship宇宙船の地上燃焼試験(スタティック・ファイア・テスト)を実施。第7回飛行試験時の状況を再現するためにエンジンの推力を変更しながら行われた60秒間の燃焼試験で得られた知見をもとに、今後の飛行試験ではハードウェアの変更や推進剤温度の調整などが適用されます。

さらに、第8回飛行試験では第6回に続いてRaptorエンジン1基の宇宙空間での再点火テストが予定されている他に、前述の通り初のペイロードの放出テストが試みられます。搭載されるのはSpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink(スターリンク)」用の次世代通信衛星とサイズ・重量が同じ模擬ペイロード「Starlink simulator」4基。模擬ペイロードはStarship宇宙船と同じ軌道を辿るため、最終的には大気圏に再突入して消滅する見込みです。

なお、SpaceXの発表では名言されていませんが、第8回飛行試験に関連した2段目(Starship宇宙船)の再突入と着水に関するNOTAM(ノータム、航空情報)がインド洋の海域を対象に通知されていることから、今回もこれまでの飛行試験と同様にStarship宇宙船はインド洋に着水するものとみられます。

Super Heavyブースターは今回も発射台帰還に挑戦

2025年1月の第7回飛行試験で発射台に帰還したSpaceXの大型ロケット「Super Heavy(スーパーヘビー)」(Credit: SpaceX)
【▲ 2025年1月の第7回飛行試験で発射台に帰還したSpaceXの大型ロケット「Super Heavy(スーパーヘビー)」(Credit: SpaceX)】

一方、Super Heavyブースターは再使用化実現への一歩として、今回も発射台への帰還が試みられます。発射台への帰還は第5回飛行試験で初めて成功しましたが、第6回飛行試験では機体を受け止める大型ロボットアームのセンサー損傷により実施されず、機体は沖合に着水。対策が施された前回の第7回飛行試験では2回目の発射台帰還に成功しています。

前回の教訓が反映されたStarship宇宙船のペイロード放出テストとインド洋への着水、そしてSuper Heavyブースターの発射台帰還に成功するか否か。Starship第8回飛行試験も注目です。

 

Source

  • SpaceX - Starship's Eighth Flight Test
  • SpaceX - NEW YEAR. NEW SHIP. NEW LESSONS.

文・編集/sorae編集部