ウェッブ宇宙望遠鏡が127光年先の巨大惑星を観測 見つかった二酸化炭素が示す意味とは

こちらは「ペガスス座」の方向約130光年先の恒星「HR 8799」を公転する4つの太陽系外惑星です。太陽系外惑星というと主星の明るさや色の周期的な変化をもとに間接的に観測されることが多いのですが、ここに示された4つの惑星「HR 8799 b」「HR 8799 c」「HR 8799 d」「HR 8799 e」は、どれも赤外線の波長で直接的に観測されたものとなります。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された恒星「HR 8799」の惑星系(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Laurent Pueyo (STScI), William Balmer (JHU), Marshall Perrin (STScI))
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された恒星「HR 8799」の惑星系(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Laurent Pueyo (STScI), William Balmer (JHU), Marshall Perrin (STScI))】

この画像は「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータを使って作成されました。

ウェッブ宇宙望遠鏡は主に赤外線の波長で観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用された3つのフィルターに応じて着色されています。惑星の色の違いは温度と組成の違いを示しています。また、HR 8799からの赤外線はコロナグラフ(明るい天体の光をさえぎってその周辺を観測しやすくするための装置)を使ってさえぎられており、星の位置は★印で示されています。

2つの惑星系の巨大惑星が太陽系の木星と同じプロセスで形成された可能性を示唆

HR 8799は直径が太陽の約1.5倍・質量が太陽の約1.6倍の恒星で、その周囲ではこれまでにbからeまで合計4つの太陽系外惑星が見つかっています。4つの惑星は直径がいずれも木星の約1.2倍・質量は木星の7~10倍と推定されています。

形成されてから3000万年ほどと(宇宙のスケールとしては)若く、温度がまだ高い惑星から放射された赤外線は惑星の形成に関する貴重なデータをもたらすことから、HR 8799は2008年から10年以上にわたって地上や宇宙の望遠鏡を使って直接観測されてきました。

今回、ジョンズ・ホプキンス大学のWilliam Balmerさんを筆頭とする研究チームは、HR 8799および地球から約97光年先の恒星「51 Eridani(エリダヌス座51番星)」の惑星系をウェッブ宇宙望遠鏡で観測。検出された近赤外線のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)を分析した結果、研究チームはHR 8799と51 Eridaniの惑星に二酸化炭素が多く含まれていることを発見しました。この結果はこれらの惑星に比較的重い元素が含まれていることを示すものであり、その量は従来の予想よりも多いといいます。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された恒星「51 Eridani(エリダヌス座51番星)」の惑星系(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Laurent Pueyo (STScI), William Balmer (JHU), Marshall Perrin (STScI))
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された恒星「51 Eridani(エリダヌス座51番星)」の惑星系(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Laurent Pueyo (STScI), William Balmer (JHU), Marshall Perrin (STScI))】

ウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカのSTScI=宇宙望遠鏡科学研究所によると、木星のような巨大惑星を形成するプロセスには固体のコア(核)がゆっくりと成長した後に周囲のガスを引き寄せるプロセスと、ガスが急速に集まるプロセスの2種類があると考えられています。ゆっくり成長するプロセスは「コア集積モデル」、急速に集まるプロセスは「重力不安定モデル」等と呼ばれています。

形成プロセスの違いは惑星の組成にも違いをもたらし、コア集積モデルでは重い元素が多くなり、重力不安定モデルでは重い元素が少なくなるといいます。そのため、コア集積と重力不安定のどちらがより一般的なプロセスなのかを知ることは、発見された様々な惑星を識別するための手がかりを得ることにつながります。

「こうした研究の目的は、私たちの太陽系や生命、そして自分たち自身を、他の惑星系と比較して理解することにあります」「他の惑星系の画像を取得し、私たちの太陽系との類似点や相違点を比較することで、私たちの存在がどれくらい特異なのか、それとも一般的なのかを探求したいのです」(Balmerさん)

太陽系外惑星「HR 8799 e」のスペクトル。青は重い元素が少ない場合、オレンジは重い元素が多い場合のベストフィットモデル。赤丸はジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測値を示しており、重い元素が多い場合のモデルと一致していることがわかる(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Joseph Olmsted (STScI))
【▲ 太陽系外惑星「HR 8799 e」のスペクトル。青は重い元素が少ない場合、オレンジは重い元素が多い場合のベストフィットモデル。赤丸はジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測値を示しており、重い元素が多い場合のモデルと一致していることがわかる(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Joseph Olmsted (STScI))】

ウェッブ宇宙望遠鏡による今回の観測結果は、HR 8799や51 Eridaniを公転する惑星が太陽系の木星や土星と同様にコア集積のプロセスで形成された可能性が高いことを示しました。直接観測可能な太陽系外惑星の形成プロセスにおいてコア集積がどれくらい普遍的なのかを理解するために、研究チームはウェッブ宇宙望遠鏡を使用したさらなる観測を提案しているということです。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

  • STScI - NASA's Webb Images Young, Giant Exoplanets, Detects Carbon Dioxide
  • ESA/Webb - Webb images young, giant exoplanets, detects carbon dioxide
  • Balmer et al. - JWST-TST High Contrast: Living on the Wedge, or, NIRCam Bar Coronagraphy Reveals CO2 in the HR 8799 and 51 Eri Exoplanets' Atmospheres (The Astronomical Journal)