2021年4月、NASAの火星探査車「Perseverance」が火星で「虹のようなもの」を撮影したと話題になったことがあります。
探査車の右後部危険回避カメラが撮影した写真の中に、火星の地平線から弧を描いている大きな「虹のようなもの」が写っていたのです。しかし、気象学者やNASAの太陽系探査計画を担当する幹部は虹であることを否定、「カメラレンズの内部反射だ」との見解を示し、一件落着したようです。
しかし、本当に火星で虹が出現する可能性はないのでしょうか?
NASAの科学者マーク・レモン(Mark Lemmon)さんは、こちらの動画でおおよそ次のように説明しています。
火星の薄い大気には水でできた雲があるのに、なぜ虹が出ないのでしょうか?
それはとても良い質問ですね。虹が出るためには、物質である水以外にも必要な条件があるのです。虹は、太陽光が球状の水滴に入り、その背面で反射し、手前に戻って来ることで出現します。氷と違って、液体の水滴は水の表面張力によって球状になっています。雪は複雑な形をしているので、虹は出ません。火星の雲は、氷点下よりはるかに低い温度です。つまり、水分が少ないので、虹ができるような水滴はできないのです。その大きさは、人間の髪の毛の20分の1、地球の雲を作っている粒の10分の1、雨粒よりもはるかに小さいです。1000倍以上の水で虹を作るには、10倍以上の大きさが必要なります。
しかし、火星には虹はありませんが、地球と同じような気象現象はたくさんあります。季節が良ければ火星にも雲があり、地球にあるような水の氷でできた雲も、ドライアイスの二酸化炭素でできた雲もあります。また、ダストデビル(dust devil:塵旋風、つむじ風)や砂嵐、雲や塵を吹き飛ばす風も存在します。
ですから、火星で探査機が見ているのは、やはり天候が大きな要素になっているのです。
関連:火星の珍しい曇りの日。探査車キュリオシティは「真珠母雲」も撮影
Source
- Video Credit: NASA
- Image Credit: NASA/JPL-Caltech
- NASA - Episode 20 – We Asked a NASA Scientist – Are There Rainbows on Mars?
- NASA MARS MISSION - Mars Perseverance Sol 43: Rear Right Hazard Avoidance Camera (Hazcam)
文/吉田哲郎