こちらは地球からおよそ20万光年先、天の川銀河の伴銀河のひとつ「小マゼラン雲」にある超新星残骸「1E 0102.2-7219」(以下「E0102」)を捉えた画像です。超新星残骸とは、超新星爆発で生じた衝撃波によって高温に熱せられたガスが、光やX線などで輝いて見える天体です。
画像はE0102のイオン化した酸素の動きを調べるために撮影されたもので、青色は地球に向かうように、赤色は地球から遠ざかるように移動していることを示しています。画像に写るE0102の帯状に連なるガスの塊は、地球から月までの距離を15分ほどで往復できる時速200万マイル(約320万km)という平均速度で爆発の中心から遠ざかりつつあるといいます。
パデュー大学のJohn Banovetz氏らの研究グループは、超新星爆発にともなう噴出物の速度から逆算した結果、現在観測されているE0102は超新星爆発から約1740年が経った姿であることが明らかになったとする研究成果を発表しました。
言い換えると、E0102を生み出した超新星爆発は3世紀後半の前後(日本では弥生時代から古墳時代にかけて)に目撃されていた可能性があります。見ることができた地域は南半球に限定され、今のところそれらしき記録も見つかってはいないようですが、当時この超新星を目撃した人がいたかもしれません。
超新星爆発からの経過時間を推定するために、研究グループは「ハッブル」宇宙望遠鏡によって10年間隔で撮影されたE0102の画像をもとに、可視光線で比較的観測しやすいイオン化酸素が豊富な噴出物の塊45個の速度を調べました。特に速く移動している塊22個を選び出してそれぞれの移動方向を逆に辿っていった結果、研究グループは超新星爆発が起きた場所を特定することに成功し、前述の経過時間を算出するに至りました。
発表によると、E0102に関する過去の研究では爆発からの経過時間が1000年や2000年とも算出されていたといいます。研究に参加したパデュー大学のDanny Milisavljevic氏によると、以前の研究ではハッブル宇宙望遠鏡にかつて搭載されていた「広域惑星カメラ2(WFPC2)」と現在も稼働中の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」という2つの異なるカメラで取得されたデータが用いられていたといいます。
いっぽう、今回の研究ではACSのデータのみが用いられました。同じカメラのデータのみを利用することで「比較がよりロバスト(堅牢)になった」とするMilisavljevic氏は、2020年で観測開始から30年が経ったハッブル宇宙望遠鏡の長寿の証だとコメントしています。
Image Credit: NASA, ESA, STScI, and J. Banovetz and D. Milisavljevic (Purdue University)
Source: hubblesite.org
文/松村武宏