こちらは「つる座(鶴座)」の方向約2400万光年先の渦巻銀河「NGC 7496」です。「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」と「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、NIRCamのデータ(青と緑で着色)は可視光線では青く見える若い高温の星が放射した赤外線を、MIRIのデータ(緑と赤で着色)は紫外線や可視光線を吸収した塵が再放射した赤外線を捉えました。赤で示された塵の分布はまるで生物の骨格のように渦巻腕(渦状腕)に沿って広がっており、そのあちこちに緑がかった青で示された若い星々が集まっている様子がわかります。
次に掲載するのは「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の「広視野カメラ3(WFC3)」で観測されたNGC 7496です。先に掲載したウェッブ宇宙望遠鏡の画像と向きや大きさが一致するように調整されています。
2つの画像を比較すると、ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた塵の分布はハッブル宇宙望遠鏡の画像では暗黒星雲の連なりとして写っていることがわかります。また、数多くの古い星が集中し、超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)も潜んでいるとみられる中心部分はどちらも明るいものの、光源が非常に明るくコンパクトな場合に生じる回折スパイク(※)はウェッブ宇宙望遠鏡の画像でのみ生じています。
※…回折スパイク(diffraction spike)は望遠鏡の構造によって生じる光芒です。たとえば「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の場合はシンプルな十字形の回折スパイクが生じますが、ウェッブ宇宙望遠鏡の場合は主鏡を構成する六角形のミラーセグメントと副鏡を支える3本の支柱によって生じた回折スパイクが組み合わさった独特な形をしています。
ウェッブ宇宙望遠鏡によるNGC 7496の観測は、近傍宇宙の銀河を対象とした観測プロジェクト「PHANGS」(Physics at High Angular resolution in Nearby GalaxieS)の一環として実施されました。ハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」、同じくチリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」も参加するこのプロジェクトでは、銀河における星形成を理解するために様々な波長の電磁波を使った高解像度の観測が数年に渡って行われています。
プロジェクトに新たに加わったウェッブ宇宙望遠鏡は星形成のサイクルを物語る泡状やフィラメント(ひも)状の構造を過去最小のスケールで観測しており、同じ銀河を長年研究してきた研究者さえも驚かせているということです。冒頭の画像はPHANGSプロジェクトでウェッブ宇宙望遠鏡が観測した近傍の19銀河のひとつとして、STScIをはじめアメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)から2024年1月29日付で公開されています。
Source
- STScI - Webb and Hubble's Views of Spiral Galaxy NGC 7496
- STScI - NASA's Webb Depicts Staggering Structure in 19 Nearby Spiral Galaxies
- NASA - NASA's Webb Depicts Staggering Structure in 19 Nearby Spiral Galaxies
- ESA - Webb reveals structure in 19 spiral galaxies
文/sorae編集部