ティコの超新星の残骸、衝撃波の膨張速度が予想外に減速
ティコの超新星残骸。X線観測衛星「チャンドラ」によるX線の観測データ(中央)と、可視光線で撮影された星々の画像(背景)を合成したもの。外縁部のなめらかな筋が衝撃波に対応する(Credit: X-ray: NASA/CXC/RIKEN & GSFC/T. Sato et al; Optical: DSS)
ティコの超新星残骸。X線観測衛星「チャンドラ」によるX線の観測データ(中央)と、可視光線で撮影された星々の画像(背景)を合成したもの。外縁部のなめらかな筋が衝撃波に対応する(Credit: X-ray: NASA/CXC/RIKEN & GSFC/T. Sato et al; Optical: DSS)

京都大学の田中孝明氏らの研究グループは、16世紀に観測された「ティコの超新星」の残骸における衝撃波の膨張速度が、予想を上回るペースで減速していることが判明したとする研究成果を発表しました。研究グループは今回の成果について、標準光源として宇宙の距離測定にも利用されている「Ia型超新星」のメカニズムを解明する上で重要な役割を果たすものとしています。

1572年11月、カシオペヤ座にまばゆく輝く「新星」が出現し、多くの人々に目撃されました。なかでも詳細な記録を残した天文学者ティコ・ブラーエにちなみ、この星は「ティコの超新星」「ティコの星」などと呼ばれるようになりました。当時超新星が観測された方向をX線で観測すると、冒頭の画像のような天体が見つかります。およそ1万3000光年先にあるこの天体はティコの超新星が残した超新星残骸で、X線は爆発の衝撃波によって高温に熱せられたガスから放出されています。

ティコの超新星残骸の衝撃波は、爆発から450年が経っても膨張を続けています。ところが、今回研究グループがアメリカ航空宇宙局(NASA)のX線観測衛星「チャンドラ」による2003年から2015年にかけてのティコの超新星残骸の観測データを分析したところ、膨張速度が最近になって急激に減速していることが明らかになったといいます。

研究グループが観測データと数値計算の結果を比較したところ、これまでは密度の低い空間を進んでいた衝撃波が密度の高いガスの壁のような構造に衝突したとすれば、膨張速度の減速をうまく説明できることがわかったといいます。研究グループは、ティコの超新星を起こした天体が爆発する前の活動によって濃いガスに囲まれた空洞を形成しており、超新星爆発はこの空洞で起きたと考えています。

白色矮星「シリウスB」(左)と地球(右)を比べたイメージ図(Credit: ESA/NASA)
白色矮星「シリウスB」(左)と地球(右)を比べたイメージ図(Credit: ESA/NASA)

Ia型超新星は太陽のように比較的軽い星が赤色巨星を経て進化した姿である「白色矮星」によって引き起こされると考えられています。白色矮星は地球くらいのサイズで太陽と同程度~半分ほどの質量がある高密度な天体です。

実は、白色矮星が超新星爆発に至るメカニズムについては議論が続いており、大きく分けると「白色矮星と連星を成す恒星のガスが白色矮星の表面に降り積もり、やがて一定の質量に達することで爆発する」とする説と、「白色矮星どうしの連星が合体・爆発する」とする説の2つが提唱されています。

このうち前者の「白色矮星と恒星の連星」で起きるとする説では、ガスが降り積もる過程で白色矮星の表面から高速の風が吹くとみられています。研究グループは、この風によって空洞が生じたとすればティコの超新星残骸における観測結果と合致することがわかったとしています。つまり今回の研究成果は、標準的なIa型超新星だったとされるティコの超新星が白色矮星と恒星の連星で生じた超新星爆発だった可能性を強く支持するものとなります。

研究グループでは、チャンドラによるティコの超新星残骸などのさらなる観測や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2022年度に打ち上げを計画しているX線分光撮像衛星「XRISM」による観測を通して、超新星爆発のメカニズムに迫りたいとしています。

恒星(左)のガスが白色矮星(右)へ降り積もっている連星の様子を描いた想像図(Credit: ESA/ATG medialab/C. Carreau)

 

Image Credit: X-ray: NASA/CXC/RIKEN & GSFC/T. Sato et al; Optical: DSS
Source: 京都大学
文/松村武宏