宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月9日、今年12月に金星周回軌道への投入に再挑戦する金星探査機「あかつき」について、軌道投入に向けて、今月下旬に計3回の軌道修正を実施すると発表した。

「あかつき」は現在、太陽のまわりを回る軌道に乗っており、今年12月7日に金星周回軌道に入ることを目指している。しかし現在の軌道のままでは、再投入後の近金点(軌道上で最も金星に近づく点)が、太陽の重力摂動の減速効果によって下がり、金星へ落下するリスクがある。そこで、これを回避し、また再投入後の観測に有利な軌道に修正するために、7月17日から31日にかけて合計3回の軌道修正が行われることになった。

「あかつき」はこれまでに3回の軌道修正制御を実施しており、今回で4回目となる。これまでは、壊れたと思われる主推進エンジンがある側(ボトム側)に装備されている姿勢制御用エンジン4基が使われたが、今回は高利得アンテナがある側(トップ側)にある姿勢制御用エンジン4基が用いられる。トップ側のエンジンは、今年12月の再投入時にも用いられる予定となっているが、長時間の燃焼が行われた実績がないので、その性能確認や特性を把握するための試験もかねているという。

この4回目の軌道修正は「DV4」と呼ばれており、合計3回実施される。当初は1回の噴射でDV4を実施することが計画されていたが、その後の検討で、噴射を複数回に分けて、それぞれ少しずつ噴射するほうがリスクが小さくなるという判断がなされたことで、計3回に分けられることになった。1回目の噴射(DV4-1)は7月17日に、2回目(DV4-2)は7月24日に、そして3回目(DV4-3)は7月31日に実施される。

この3回の噴射で、探査機の速度の変化量は合計秒速87mになり、これによって12月7日に最適な軌道に入るための準備が整うことになる。それぞれの噴射の割合は、DV4-1で94秒間で変化量は秒速約18m、DV4-2は276秒間で秒速約53m、そしてこれらを踏まえてDV4-3の噴射時間を決定するという。なお、トップ側のエンジンの性能が、現時点でどれぐらい出るかが不明なので、たとえば性能が若干下がっているようなら、2回目、3回目での噴射時間を変えたり、さらに追加で噴射することで対応するという。

噴射の結果がわかるのは、地上のアンテナで測定する必要や、その測定に海外のアンテナを使う必要もあることなどから、おおよそDV4-3から3日後ぐらいになるという。

今回の軌道修正は、12月の金星周回軌道投入への再挑戦に向けて、ここ数か月で最大の難所となる。会見に立った「あかつき」プロジェクト・マネージャーの中村正人(なかむら・まさと)さんは「実はすごく緊張しています。ご飯ものどを通らないぐらいです。DV4-1で、トップ側のエンジンを初めて長時間噴射することになりますので」と心情を吐露しつつも「ぜひ成功させたいです」と語った。

「あかつき」は日本初の金星探査機として2010年5月21日に打ち上げられ、同年12月7日に金星を回る軌道への投入に挑んだ。しかし、軌道投入に必要なエンジンの噴射中に、探査機の姿勢が乱れ、異常を検知した探査機のコンピューターが噴射を停止させた。それにより探査機は守られたものの、噴射時間が短かったために金星周回軌道への投入には失敗した。

その後の調査で、燃料配管にあるバルブが、燃料(ヒドラジン)と酸化剤(四酸化二窒素)が反応してできた硝酸アンモニウムの結晶によって詰まってしまい、投入時に使うロケット・エンジンへ送り込まれる燃料と酸化剤の比率が変わり、その結果エンジンが異常燃焼を起こし、破壊されたものと推定されている。地上での実験でも、実際にエンジンが破壊されることが再現されている。

今年12月の再挑戦が成功し、無事に軌道に入ることができれば、当初の予定よりも細長い軌道になるため、計画されていた観測のうちいくつかはできなくなるものの、新たに観測が可能となる事柄が生まれるという。投入後は約3か月をかけて観測機器のチェックなどを行い、2016年の春に遠金点高度を32万kmに下げ、そこから本格的な観測が始まる。ミッション期間はまず約2年間ほどと見込まれており、また探査機の状態によっては、最大4年まで延ばせる可能性があるという。

 

■金星探査機「あかつき」の金星周回軌道再投入に向けての記者説明会 | ファン!ファン!JAXA!
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