米海洋大気庁(NOAA)は6月8日、今年の2月に打ち上げられた地球と宇宙天気を観測する衛星「DSCOVR」が、目的地である太陽・地球系のラグランジュ第1点に到着したと発表した。このあと搭載機器の試験などが行われ、この夏から本格的な運用を開始するという。
DSCOVRは米国時間2015年2月10日(日本時間2月11日)に、ファルコン9ロケットに搭載され、米国フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル空軍ステーションから打ち上げられた。そして約35分後に暫定的な軌道に入り、その後衛星側のスラスターを使い、徐々に軌道を変えて、目的地である太陽・地球系のラグランジュ第1点へ向かっていた。
DSCOVRは米航空宇宙局(NASA)とNOAAが開発した衛星で、太陽から放出される荷電粒子や、磁気嵐の状況といった「宇宙天気」を観測することと、また地球の昼の側(太陽光が当たる側)を常時観測することを目的としている。DSCOVRは「Deep Space Climate Observatory」の略で、直訳すると「深宇宙の気象観測所」といった意味になる。またDSCOVRという略語は、「発見する」という意味の「Discover」に掛けられている。
DSCOVRが運用される太陽・地球系のラグランジュ第1点という軌道は、地球から約150万km離れた、太陽と地球との間の引力が均衡しているポイントで、ここに衛星を置くことで、太陽や地球から見て、常に同じ位置から観測し続けることができる。
DSCOVRはもともと、1990年代に開発がはじまったトリアーナ計画を源流としている。トリアーナは当時のアル・ゴア米副大統領の肝いりで始まった計画で、太陽・地球のラグランジュ第1点から、地球の太陽に向いている面を常に観測し続け、地球表面からのエネルギーの放射量やエアロゾル、オゾン、雲の動きなどを観測すること、そして青く輝く地球の写真を、ほぼリアルタイムで世界中に配信するというミッションも目的としていた。ゴア副大統領は、1972年にアポロ17の宇宙飛行士たちが撮影した、宇宙に浮かぶビー玉のように輝く地球の写真(通称「ザ・ブルー・マーブル」)を、トリアーナを使って現代の、そして常に最新の写真で再現し、それを世界中に配信することで、環境問題や世界平和への意識を高めることを期待していたという。
しかしこのような計画は税金の無駄遣いであるとの非難がなされ、また他に搭載される観測機器も、すでに今ある他の衛星からのデータで十分であるという声もあったことから、衛星はほぼ完成していたにもかかわらず、2001年に計画は中止されることになった。
その後、衛星は保管され続けていたが、2009年にNOAAが資金提供を行い、太陽風の観測衛星「ACE」の後継機として、トリアーナ改めDSCOVRを復活させることになった。ミッションの主役はNASAからNOAAへ移り、観測機器などは変わらなかったものの、NOAAの要求に合わせて調整が行われ、新たに宇宙天気の観測を目的とした衛星として生まれ変わり、17年越しにようやく打ち上げられることになった。
今後、観測機器の試験などを進め、今年の夏ごろから本格的な運用を開始する予定となっており、ミッション期間は5年が予定されている。
■NOAA's Satellite and Information Service (NESDIS)
http://www.nesdis.noaa.gov/news_archives/DSCOVR_L1_orbit.html