宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月18日、第41回宇宙開発利用部会・調査・安全小委員会にて、「イプシロンロケット」6号機打ち上げ失敗の原因調査について最新の状況を報告しました。
イプシロンロケット6号機は内之浦宇宙空間観測所から日本時間2022年10月12日9時50分に打ち上げられましたが、燃焼を終えた第2段と第3段の分離可否を判断する時点で機体の姿勢が目標からずれていて、衛星を地球周回軌道に投入できないと判断されたため飛行を中断。同日9時57分11秒に指令破壊信号が送信されて、打ち上げは失敗しました。
指令破壊された6号機の機体は、フィリピン東方の海上にあらかじめ計画されていた第2段の落下予想区域内に落下したとみられています。イプシロンロケットは1号機(2013年9月)から5号機(2021年11月)まで打ち上げに成功しており、失敗は今回の6号機が初めてです。
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10月18日に公開されたJAXAの資料によると、第2段に2基搭載されていた姿勢制御用のガスジェット装置(後述)の片方が正常に機能せず、打ち上げ失敗の原因になったことがわかりました。イプシロンロケット6号機の飛行経路、第1段と第2段の落下予測点、測地高度、慣性速度は、発射から飛行中断まで計画の範囲内であり、第2段のエンジンが燃焼を終えるまでは姿勢を正常に制御できていたことが確認されています。しかし、第2段燃焼終了後の機体姿勢は目標値との誤差が増大していき、スピンモータ燃焼終了後(※1)の最終的な姿勢角の誤差は約21度に達していた模様です。
※1…第3段のエンジン燃焼中は機体の回転(スピン)によって姿勢の安定を確保する必要があるため、第2段と第3段を分離する前にスピンモータと呼ばれる小型の固体燃料ロケットエンジンを使って機体を回転させる。
イプシロンロケットの第2段に搭載されているガスジェット装置(RCS:Reaction Control System)は、合計8基のスラスタノズルからガスを噴射することで生じる推力を利用して、機体のロール角(回転)・ピッチ角(上下の首振り)・ヨー角(左右の首振り)を制御する装置です(※2)。第2段には4基のスラスタを備えたガスジェット装置が後端の左右に各1基搭載されていて、ガスを噴射するスラスタの組み合わせを変えることで姿勢を制御します。同様の装置は、さまざまなロケットや宇宙機に搭載されています。
※2…2段エンジン燃焼中はノズルを動かして燃焼ガスの噴射方向を調整することでピッチ角とヨー角を制御するため(TVC:Thrust Vector Control)、ガスジェット装置によるピッチ角とヨー角の制御は2段エンジンの燃焼が終了してから行われる。
ガスジェット装置の推進薬であるヒドラジンは、第1段の分離直前まではスラスタに供給されないように、タンクとスラスタの間に設けられているパイロ弁(バルブ)で遮断されています。パイロ弁を開放するための点火信号は発射から151.5秒後と152.5秒後に送信されていて(※3)、片方のガスジェット装置ではパイロ弁下流にヒドラジンが流れ込んだことで、配管圧力がタンクと同じ圧力まで上昇したことがわかっています。
※3…推進薬の流路を開通させる火工品が各パイロ弁に2つ組み込まれていることから2回送信されている。2つのうち1つだけでも作動すれば流路が開通する冗長構成。
いっぽう、もう片方のガスジェット装置ではパイロ弁下流の圧力が低いままで、タンク圧力まで上昇しなかったことが判明。このことから、2段エンジン燃焼終了後の3軸姿勢制御を担うガスジェット装置の1基が正常に機能せず、姿勢角誤差が増大する原因になったとみられています。片側のガスジェット装置で異常が発生したそもそもの要因はまだ特定されていませんが、10月18日の時点では以下の3つに絞り込まれています。
・コマンドを受けてパイロ弁を開くための電気配線の異常
・パイロ弁の開放動作不良
・推進剤供給配管の閉塞(詰まり)
JAXAは引き続き分析を行い、原因の究明と対策の検討を進めるとしています。
Source
- Image Credit: JAXA
- JAXA - イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況について
文/松村武宏