2020年に起きたベイルートの爆発、核以外では歴史上最大級の規模だった
Aerial view during the explosion in the port area of Beirut, Lebanon. Ammonium nitrate stored in the harbor. 3d render. Streets and buildings. Explosion that devastated much of Beirut's port area
ベイルートの爆発を再現したイメージ(Credit: shutterstock)

北海道大学大学院の日置幸介氏らの国際研究グループは、2020年8月にレバノンの首都ベイルートで発生した大規模な爆発の規模を分析した結果、核実験以外の爆発では人類が起こしたものとして歴史上最大級の規模だったとする研究成果を発表しました。

ロシアの地球観測衛星「Kanopus-V」が撮影した爆発前(上、2019年11月4日)と爆発後(下、2020年8月5日)のベイルート港周辺の様子。火薬倉庫は爆発により消滅し、クレーターが生じている(Credit: ROSCOSMOS)

現地時間2020年8月4日18時頃、ベイルート港で不適切な管理状況にあったとみられる火薬倉庫が爆発。NHKはレバノン政府の発表として死者205人、負傷者6500人以上と報じています。爆発後に撮影された衛星画像には火薬倉庫とその周辺にあった建物などに甚大な被害が及んだ様子が写っており、爆発の責任を取る形で内閣が総辞職した後のレバノンでは政治的な混乱も続いています。

この爆発の規模を調べるために、研究グループは地球の大気を構成する物質の一部がイオン化(電離)している電離圏(高度約60~1000km以上)に注目しました。電離圏ではイオン化にともなう自由電子が数多く飛び交っていますが、地上で火山の噴火などによる大規模な爆発が発生するとその爆風(音波)が電離圏まで到達し、電子の密度が変化する電離圏擾乱が生じます。

研究グループがイスラエルやパレスチナで測定された全球測位衛星システム(GNSS※)のデータを分析した結果、ベイルートで爆発が起きてから約10分後には高度300kmの電離圏F領域(電子の密度が最も高い領域)に爆風(音波)が到達し、電子密度の濃淡が作り出した電離圏全電子数(TEC)に揺らぎが生じていたことが判明。揺らぎの振幅から爆発の規模を求めたところ、2004年9月1日に群馬・長野県境の浅間山で起きた噴火よりもわずかに大きく、冒頭でも触れたように核実験を除き人類が起こしたものとしては歴史上最大級の爆発だったことが明らかになったといいます。

※…Global Navigation Satellite System、GPS(アメリカ)やQZSS(日本)なども含む測位衛星システムの総称

研究グループは、全球測位衛星システムを用いた電離圏観測法は世界中で起きたさまざまな爆発現象をモニターすることが可能であり、今後も爆発規模の推定などでの有効利用が期待されるとしています。

左:データの分析に利用された地上のGNSS局の位置。中央:爆発の約10分後に電離圏へ到達した爆風(音波)によって生じた電子の濃淡(赤と青)を示した図。右:実際の観測値と理論上の計算値を比較した図(Credit: 北海道大学)

 

Image Credit: 北海道大学 / Shutterstock
Source: 北海道大学 / NHK
文/松村武宏

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