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インペリアル・カレッジ・ロンドンのJung-Hun Song氏を筆頭とする研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査機「InSight(インサイト)」が観測した地震波の分析を通じて、火星の巨大な峡谷「マリネリス峡谷」の地下で古い断層が今も動いている可能性を示す研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature Communications」に掲載されています。

ESAの火星探査機「Mars Express(マーズ・エクスプレス)」で取得したデータを使って作成された火星の画像(Credit: ESA/DLR/FU Berlin/G. Michael)
【▲ ESAの火星探査機「Mars Express(マーズ・エクスプレス)」で取得したデータを使って作成された火星の画像(Credit: ESA/DLR/FU Berlin/G. Michael)】

数十億年前に形成された断層は今も活動できるのか?

地球では表面を構成する複数のプレートが動き続け、表面を絶えず作り変えています。一方、火星の表面は一枚板のプレートのように振る舞い、大きく動くことはなくゆっくりと冷えてきたと考えられています。

研究チームの論文によると、プレートの内部が冷えていく過程では、古い断層の摩擦が時間とともに強まり、動きにくくなる可能性があります。火星のような惑星で数十億年前に形成された古い断層が、その後に加わる応力(岩盤を押し縮めたり引き伸ばしたりする力)で再び動くのかどうか、観測では直接確かめられていませんでした。

地震波を生じさせたのはマリネリス峡谷の横ずれ断層?

今回、研究チームが注目したのは、インサイトが検出した火星の地震(火震)のひとつである「S0976a」です。2021年8月25日に記録されたこの地震は、過去の研究ではマリネリス峡谷の西部付近を震源とする可能性が指摘されていましたが、地震波を生じさせた原因ははっきりしていませんでした。

研究チームが分析を行ったところ、観測された地震波に最も適合するのは、マリネリス峡谷西部の地下20~40km付近で横ずれ断層が動いたとする場合でした。一方、隕石の落下や地すべりなどを想定したモデルでは、観測された地震波を再現できなかったといいます。

峡谷付近の応力が古い断層を再び動かした可能性

S0976aとして検出された地震波が横ずれ断層の動きによって生じたと仮定すると、断層にはマリネリス峡谷に沿った方向へ強く圧縮する応力がかかっていたと推定されます。この力は主に、火星が長い時間をかけて冷却・収縮することで生じていると考えられています。

また、マリネリス峡谷を横切る方向へ圧縮する応力は、付近の火山地帯であるタルシス地域の重みによって岩盤がたわむことなどによって、弱められていることが考えられるといいます。こうした応力を想定すると、マリネリス峡谷にもともと存在していた古い断層が再び動いた可能性があり、S0976aとして検出された地震波とも整合するというわけです。

今回の結果は、マリネリス峡谷の歴史において早い段階で形成された断層が、数十億年後の現在も再び動き得る可能性を示すものとなりました。地球のようなプレート運動が存在しない惑星で、地殻の活動がどのように続いていくのかを理解する上で、重要な手がかりになることが期待されます。

Song氏は「私たちの研究は、本来なら地質学的に活動していないと考えてしまいそうな他の天体でも、現在続いている地震活動を発見できるという、わくわくするような可能性を開くものです」と述べています。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典