火星の地下深くから上昇し、エリシウム平原を押し上げるマントルプリュームのイメージ図。中央の割れ目の集まりはケルベロス地溝帯で、その奥にはNASAの火星探査機インサイトも描かれている
【▲ 火星の地下深くから上昇し、エリシウム平原を押し上げるマントルプリュームのイメージ図。中央の割れ目の集まりはケルベロス地溝帯で、その奥にはNASAの火星探査機インサイトも描かれている(Credit: Adrien Broquet & Audrey Lasbordes)】

アリゾナ大学月惑星研究所(LPL)のAdrien BroquetさんJeff Andrews-Hannaさんからなる研究チームは、現在の火星は従来考えられていたよりも地質学的に活発であり、地殻を押し上げるマントルプリューム(地下深くから上昇してくる高温物質の流れ)が存在する可能性を示した研究成果を発表しました。

巨大な楯状火山であるオリンポス山(Olympus Mons)など幾つもの火山の存在が示すように、過去の火星では火山活動が起きていたことが知られています。これらの火山が活動していた時代は古く、現在の火星は地質学的に活発ではないと考えられてきました。「火星が最も活動的だったのは30億~40億年前のことであり、今日の火星は本質的に死んでいるというのが一般的な見解です」(Andrews-Hannaさん)

ところが、火星の北半球に広がるエリシウム平原(Elysium Planitia)では、ずっと後の時代に起きた地質活動の証拠が見つかっています。何十億年も目立った活動がない火星の他の地域とは異なり、エリシウム平原では過去2億年に渡って大規模な噴火が起きたとみられています。Andrews-Hannaさんが参加したLPLの研究チームは以前、今からわずか約5万3000年前にこの地域で小規模な噴火が起きた証拠を発見したとする研究成果を発表しました。

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関連:火星の火山活動は今も続いている? 過去5万年以内に起きた可能性がある噴火の堆積物を発見(2021年5月)

最近の噴火の証拠は、エリシウム平原に生じた約1300kmに渡る割れ目の集合体であるケルベロス地溝帯(Cerberus Fossae)で見つかりました。LPLによると、地震計を搭載しているアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「InSight(インサイト)」のチームは最近、火星で検出されたほぼすべての地震(火震、Marsquake)がケルベロス地溝帯で発生していることに気付いたといいます。これらの証拠は火星が今も地質学的に活発である可能性を示しているものの、火山や地殻構造の活動をもたらす根本的な原因はわかっていませんでした。

【▲ ケルベロス地溝帯の想像図。欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」の観測データをもとに作成(Credit: ESA/DLR/FU Berlin)】
【▲ ケルベロス地溝帯の想像図。欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」の観測データをもとに作成(Credit: ESA/DLR/FU Berlin)】

地球の場合、火山活動や地震はプレート運動やマントルプリュームに関連する傾向があります。現在の火星にはプレート運動が存在しないことから、BroquetさんとAndrews-Hannaさんはマントルプリュームに着目して、エリシウム平原の地形や重力場などの特徴を分析しました。その結果、エリシウム平原の下にマントルプリュームが存在する可能性が示されたといいます。

LPLによると、火星の北半球には低地が広がっていますが、エリシウム平原では地表が隆起していて、北半球の低地で最も標高が高い地域の1つとなっています。隆起する地表は火星内部の奥深くから支えられていることを重力場の分析結果が示しており、マントルプリュームの存在と一致します。また、形成後に地表が押し上げられたことで生じたとみられる衝突クレーターの底の傾きも、マントルプリュームの仮説を支持するといいます。

さらに、地球物理学的モデルを用いて解析した結果、ケルベロス地溝帯の形成を説明できるのは幅約4000kmの巨大なマントルプリュームだけであることも研究チームは発見したといいます。Broquetさんは、NASAのインサイトが着陸したのは火星の低地を代表する平坦な場所だったはずが、実際には活動中のマントルプリュームの上に降りていたことを今回の結果が示していると述べ、他の地域とは性質が大きく異なる場所で地震データが記録されたことを考慮する必要があると指摘しています。「今も存在する活発なマントルプリュームは、火星の地質学的進化を理解する上でのパラダイムシフトです」(Broquetさん)

マントルプリュームの存在は、生命の居住可能性にも影響を及ぼしているかもしれません。現在の火星表面に液体の水は流れておらず、表面下に氷として存在していますが、ケルベロス地溝帯では(地質学的な意味での)最近になって洪水が起きたとみられています。マントルプリュームがもたらす熱は氷を溶かして洪水を引き起こす可能性があるだけでなく、地下深くに生息する生命を支えることさえできるかもしれません。

Andrews-Hannaさんは今回の成果について、地震活動や火山活動の説明に留まらない発見であり、「未来ではさらなる驚きが待っていると私たちは確信しています」とコメントしています。

 

Source

  • Image Credit: Adrien Broquet & Audrey Lasbordes, ESA/DLR/FU Berlin
  • LPL - Giant mantle plume reveals Mars is more active than previously thought
  • A. Broquet & J. C. Andrews-Hanna - Geophysical evidence for an active mantle plume underneath Elysium Planitia on Mars (Nature)

文/松村武宏

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