David Horvath氏(アリゾナ大学月惑星研究所:研究当時)らの研究グループは、地質学的にはつい最近と言えるこの5万年以内に、火星で噴火が起きていた可能性を示した研究成果を発表しました。研究グループでは、火山活動によって微生物の生存に適した環境がもたらされていた可能性もあるとして、噴火が起きた地域に注目しています。
■ケルベロス地溝帯で新しい火山性堆積物を発見
研究グループによると、この噴火はエリシウム平原のケルベロス地溝帯に走る亀裂の一つで起きました。噴火は火山砕屑物(火砕物)の噴出をともなう爆発的噴火だったとみられており、長さ約30kmの亀裂の周囲では幅12~3kmに渡り、噴出した火砕物が古い時代の溶岩流の上に堆積しているといいます。堆積物はアメリカ航空宇宙局(NASA)の「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」などの周回探査機による観測データをもとに発見されました。
オリンポス山をはじめ幾つもの火山が存在することからもわかるように、過去の火星では火山活動が起きていたことが知られています。研究グループによると、ほとんどの火山活動は今から30億~40億年前という古い時代のことであり、エリシウム平原のように一部では300万年ほど前まで小規模な火山活動が続いていたとみられるものの、現在まで火山活動が続いている可能性を示す証拠はこれまで見つかっていなかったといいます。
今回発見されたケルベロス地溝帯の新しい火山性堆積物は、分析の結果、前述のように過去5万年以内に起きた噴火にともなって噴出した可能性が示されています。現在は米惑星科学研究所に所属するHorvath氏は「これまでに火星で記録されたもののなかでは最も新しい火山性堆積物かもしれません。火星の地質学的な歴史を1日に縮めるとすれば、この噴火は最後の1秒で起きたことになります」と語ります。研究グループはこの火山性堆積物について、火星で今も火山活動が続いている可能性を高めるものだと考えています。
■火山活動が生命に適した環境をもたらしたかもしれない
ケルベロス地溝帯といえば、2018年11月にエリシウム平原へ着陸したNASAの火星探査機「InSight(インサイト)」によって、同地溝帯が震源とみられる火星の地震(火震)が複数回検出されています。研究グループによると、ケルベロス地溝帯を震源とする地震は地下深くのマグマの動きが原因となっている可能性が最近の研究で指摘されているといいます。
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Horvath氏はインサイトによる地震の検出にも触れた上で、現在に近い時代の火星では地表近くにマグマが維持されるのは難しく、今回見つかった堆積物をもたらした噴火は地下深くの供給源から上昇してきたマグマによって引き起こされた可能性に言及。研究に参加した月惑星研究所のJeffrey Andrews-Hanna氏は、今回の研究成果やインサイトなどの探査機によるデータがすべて「火星は死んでいない」ことを物語っているようだと指摘します。
また、今回発見された火山性堆積物は、地質学的な意味だけでなく、宇宙生物学的な意味でも「生きている」可能性を示すものとなるかもしれません。研究グループでは、上昇してきたマグマによって火星地下の氷が温められ、氷が溶けたり熱水循環が生じたりすることで、微生物の生存に適した環境がもたらされていた可能性があると考えています。Horvath氏は、火山活動によって「この地域に生命が現存する可能性が高められたかもしれません」とコメントしています。
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Image Credit: NASA/JPL/MSSS/The Murray Lab
Source: 米惑星科学研究所 / アリゾナ大学
文/松村武宏