多くの銀河では中心に質量の大きなブラックホールが存在すると考えられており、なかにはその活動にともなって強い電磁波が放射される場合もあります。今回、およそ9時間周期でX線を放つ超大質量ブラックホールとみられる天体の活動に、ブラックホールに破壊されかけた星が関係しているとする研究成果が発表されています。
■潮汐破壊をまぬがれた白色矮星が9時間周期でブラックホールを周回か
2018年12月24日、欧州宇宙機関(ESA)のX線天文衛星「XMM-Newton」によって、南天の「ちょうこくしつ座」の方向およそ2億5000万光年先にある銀河「GSN 069」において、通常時の100倍も強いX線を放つ天体が観測されました。このX線源は1時間以内に通常のレベルまで弱まりましたが、およそ9時間後には再び強いX線を放つ様子が観測されています。
その後NASAのX線観測衛星「チャンドラ」を交えた追加観測により、GSN 069のX線源がほぼ9時間周期で強いX線を放っていることが明らかになりました。今回、レスター大学のAndrew King氏は、GSN 069の中心にあるとみられる超大質量ブラックホール(質量は太陽の約40万倍と推定)を白色矮星が周回しており、X線の周期的な放出に関係している可能性を指摘しています。
King氏によると、GSN 069の超大質量ブラックホールの周囲では、太陽の約2割の質量がある白色矮星が細長い楕円軌道を約9時間ごとに1周していると考えられています。この白色矮星は最接近時に「事象の地平面」の半径の15倍以下というごく近くまでブラックホールに近づくため、白色矮星を構成する物質の一部がブラックホールに奪い取られるとみられます。このときに強いX線が放射されることで、地球からは白色矮星の公転周期と同じ9時間周期のX線源として観測されているようです。
またKing氏は、超大質量ブラックホールを周回する白色矮星の正体は、かつてブラックホールに接近した赤色巨星の中心部分だった可能性が高いとしています。太陽の12倍程度の大きさがある赤色巨星がブラックホールに近づいた結果、強力な重力がもたらす潮汐力によって外層の部分は破壊されてブラックホールに飲み込まれたものの、中心部分だけが生き残ったというわけです。ブラックホールの潮汐力で破壊(潮汐破壊)されたとみられる恒星の観測例に対して、完全な破壊をまぬがれたケースはかなりめずらしい現象とされています。
なお、もしもこのような白色矮星が周回しているとすれば、ブラックホールの重力がもたらす相対論的効果によって、白色矮星が描く楕円軌道の近点(ブラックホールに最も近づく軌道上の一点)は1周するごとに約70度ずつずれていくとみられています。King氏は近点の移動による影響は地球に届くX線にも約2日間のサイクルで現れる可能性があると予想しており、長期間の観測によって検出できるかもしれないと考えています。
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Image Credit: X-ray: NASA/CXO/CSIC-INTA/G.Miniutti et al.; Illustration: NASA/CXC/M. Weiss
Source: NASA / ESA
文/松村武宏