
こちらは、ESO=ヨーロッパ南天天文台が運営するチリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」を構成する4基の大型望遠鏡(口径8.2m)。2025年11月初めに長時間露光で撮影されました。
各望遠鏡から空に向かって1本ずつ伸びているのは、補償光学(Adaptive Optics: AO)という技術を支えるレーザービーム。左端で明るく輝いているのは、太陽ではなく月です。

地球には大気があるので、地上から天体を観測しようとすると、大気のゆらぎの影響を受けて像がぼやけてしまいます。そこで、VLTや国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」といった地上の大型望遠鏡では、ゆらぎの影響を打ち消すために補償光学が活用されています。
補償光学では、望遠鏡の反射鏡をリアルタイムに変形させてゆらぎの影響を打ち消し、天体を鮮明に捉えることができます。

補償光学を利用して観測を行うには目安となる明るい星が必要なのですが、そのような星がいつでも利用できるとは限りません。
そこで登場するのが「レーザーガイド星」です。地球の上層大気にあるナトリウム層に向かってレーザーを照射し、励起したナトリウムの光を“人工の星”として利用することで、ゆらぎを測定する方法です。
VLTではこれまで1基の大型望遠鏡にのみ補償光学用のレーザー発振器が搭載されていましが、「GRAVITY+」と呼ばれるアップグレード計画の一環として、他の大型望遠鏡にも各1基のレーザー発振器が搭載されました。

GRAVITY+は、パラナル天文台の干渉計「VLTI(Very Large Telescope Interferometer=VLT干渉計)」の能力向上を目的としたプロジェクトです。VLTIはVLTの大型望遠鏡4基と、口径1.8mのVLTI補助望遠鏡4基で構成される干渉計で、捉えた光は観測装置「GRAVITY」などに送り込まれて処理されます。
干渉計とは、複数の望遠鏡を連動させて同じ対象を観測することで、単一の望遠鏡で観測する場合よりも高い解像度を得るための仕組み。電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」などでも利用されています。

記事前半で触れた補償光学はVLTIでも利用されてきましたが、レーザー発振器を搭載する大型望遠鏡が1つだけだったため、補償光学を用いて観測できる天体は天然のガイド星を利用できる一部に限られていました。
4基すべての大型望遠鏡にレーザー発振器が搭載されたことで、補償光学を用いたVLTIの観測範囲は南天全体へ一気に拡大されることになります。
アップグレード後の試験観測では、約16万光年先の大マゼラン雲(大マゼラン銀河)にある輝線星雲「タランチュラ星雲(Tarantula Nebula)」の星団に望遠鏡が向けられました。
次に掲載する画像の右下に挿入されているのは、GRAVITY+にアップグレードされたVLTIが捉えた連星です。ESOによると、当初この星は単一の恒星だと思われていましたが、実際に連星であることがVLTIの観測によって明らかにされました。

GRAVITY+にアップグレードされて装置の感度が最大10倍に向上したVLTIは、恒星を周回しない浮遊惑星(自由浮遊惑星)、若い星やその周囲を取り囲む原始惑星系円盤、天の川銀河の中心部にある超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」のすぐ近くにある恒星、遠方の活動銀河とその中心にある超大質量ブラックホールといった、さまざまな天体の観測で活躍することが期待されています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部






















