米国のユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社は16日、現在アトラスVロケットの第1段に使われているRD-180ロケットエンジンに取って代わる、新しい国産の炭化水素燃料ロケットエンジンの開発に向けて、その調査と検討のため、国内の数社と契約を結んだと発表した。早ければ2019年にも新しいエンジンを打ち上げに使いたいとしている。

ULA社は、米国を代表する航空宇宙大手のロッキード・マーティン社とボーイング社によって設立された会社で、両社が製造するアトラスVやデルタIVといったロケットを一括して運用している。両機は米軍や、米国家偵察局(NRO)の軍事衛星の打ち上げを担っているが、昨今のウクライナ情勢と、それに起因する米国とロシアとの関係悪化に伴い、アトラスVが打ち上げられなくなる可能性が出てきている。

というのも、アトラスVの第1段のRD-180はロシアのNPOエネゴマシュ社という会社が製造しているエンジンで、米国はそれをRD AMROSSという米ロの合弁企業を介して輸入し、ロケットに装着して使用しているに過ぎないからだ。今のところ、すぐに使用できなくなるというような事態にはなっていないが、ロシアのドミートリィ・ロゴージン副首相は5月に、ロシア製エンジンの輸出を取り止めることを匂わせる発言をしており、いずれそうなる可能性がないわけではない。また米国内でも、今後ともロシア製エンジンに依存することへの懸念が広がっている。

今回結ばれた契約により、RD-180の代替を目指し、新しいエンジンの技術的な分析や、開発する際のスケジュールやコスト、リスクといった調査が行われる。新しいエンジンの燃料は炭化水素に限られており、液体水素のエンジンは除外されている。またRD-180の燃焼はケロシンだが、炭化水素という括りであることから、ケロシンだけでなくメタンなども検討の範疇に入っていると思われる。契約は複数の会社と交わされたとされるが、その相手については明らかにされていない。同社では今年の第4四半期までに、新しいエンジンの概念と、それを開発、製造する会社を選択し、2019年のエンジンの実用化を目指すという。

また同時に、RD-180を引き続き使用するための討議もロシア側と行っていくとされ、さらにRD-180の米国内での生産を行うことも検討しているという。

RD-180は、かつてソ連で開発された超大型ロケット、エネルギヤのために開発されたエンジン、RD-170を基に開発されたエンジンだ。RD-170は4つの燃焼室を持つが、RD-180は2つとなっている。これまでにアトラスIIIロケットや、渦中のアトラスVに使用されている一方で、ロシアでの使用実績はない。ただし、RD-170は前述のエネルギヤやゼニートロケットの第1段に、また燃焼室を1つにしたRD-191やRD-151は、ロシアの次世代ロケットであるアンガラーや、韓国の羅老ロケットの第1段に使われている。

ロシア製エンジンを米国のロケットに、それも軍事衛星を打ち上げるロケットに使用することに対して、これまでも批判がないわけではなかった。しかし、RD-180ほどのエンジンを一から自力で開発するよりは輸入した方が安く、確実で、またアトラスIIIが登場した2000年以来、アトラスVも含めた合計52回の打ち上げのすべてで完璧な成功を収めていることもあり、批判の声が大きくなることはなかった。

米国には他にもデルタIVがあり、ULA社自身は快く思ってはいないがスペースX社のファルコン9もあり、もしアトラスVが打ち上げられなくなったとしても、宇宙へのアクセス手段そのものを失うことにはならない。今回のロケットエンジンの脱ロシア化に向けた試みは、米国にとって危急の問題というよりは、米国内のロケット産業の仕事を増やすための口実であり、またロシアに対する不満のはけ口を作り、そして「輸入できなくなっても別に構わない」という、ロシアに対するメッセージでもあろう。

それに対して、ロシアにとってはRD-180の輸出先がなくなり、NPOエネルゴマシュは損害を被ることになる。ロシアは今後、態度を軟化させるか、あるいは米国に代わる新しい輸出先を探す必要に迫られるだろう。

 

■ULA Signs Multiple Contracts for Next-Generation Propulsion Work - United Launch Alliance
http://www.ulalaunch.com/ula-signs-multiple-contracts-for-.aspx