きく8号、運用終了 東日本大震災被災地に衛星回線を提供

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JAXAは1月10日、技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)「きく8号」の運用終了を発表した。ミッション期間の3年、衛星の寿命である10年を超え、燃料も残りがわずかになったためである。運用中の静止衛星に影響がでないように静止軌道から離脱した後、10日午後3時25分(日本時間)に停波作業が行われた。

 

世界最大級のアンテナと新しい衛星バス

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宇宙で展開された「きく8号」大型展開アンテナ(送信用)の実際の写真

きく8号は通信技術の試験を目的とした衛星だ。

世界最大級のアンテナは展開すると約19m×17mと、テニスコート1面分の面積よりも広い。受信用と送信用、2つのアンテナを備えている。傘のように広げて使用するその巨大なアンテナを実現できた理由は、構造にある。大手電機メーカーが開発した金メッキを施した極細の金属繊維を、加賀の「友禅織」の繊維加工技術でメッシュ状に編みこんだ。これによって、薄さと強度を兼ね備えたアンテナが完成した。

また、きく8号にはNASDA(現JAXA)が新しく開発した静止衛星用の衛星バスが用いられた。衛星バスとは、衛星の基礎となる構造のことである。きく8号とデータ中継技術衛星(DRTS)「こだま」を元に三菱電機が開発し製造している衛星バス「DS2000」は、「ひまわり」、「みちびき」、トルコから受注した「トルコサット」など衛星にも採用されている。現在、三菱電機が行う主要な宇宙事業の一つだ。

 

H-ⅡA最高の能力を持つ「204型」で打ち上げ

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2006年12月18日、H-ⅡAロケット11号機・きく8号の打ち上げ

重い衛星を打ち上げるためには、それなりのパワーがロケットに求めれらる。

当初、きく8号はH-ⅡAロケットに、新しく開発する液体ロケットブースター(LRB)を1本付けて打ち上げられる予定だった。しかし、打ち上げコストの削減が見込めなかったことから2001年にLRBの開発は中止されてしまう。きく8号は、静止軌道まで7.5tの衛星を打ち上げることができるLRBバージョンのH-ⅡAありきで設計された衛星だったため、どうやって打ち上げるのか検討された。

そこで考案されたのがH-ⅡAの204型である。204型は、固体ロケットブースター(SRB-A)を4本用いることで、現在のH-ⅡAのラインナップ中最高の打ち上げ能力を持ち、5.8tの衛星を静止軌道に打ち上げることができる。2006年12月18日、きく8号はH-ⅡAロケット11号機(204型)によって打ち上げられた。
なお、204型は2015年にカナダの商業通信衛星「Telstar12V」を打ち上げるため、約9年ぶりに使われた。204型は商業打ち上げ需要に応えられるロケットとして活用されている。

 

東日本大震災後、被災地に通信環境の提供

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東日本大震災後に行われた大船渡市への通信環境の提供

打ち上げ後、2007年に受信側アンテナの異常、2008年にイオンエンジンの異常が見つかったが、ミッションについては順調に行われた。

2007年から2009年までのミッション期間では、日本各地の防災訓練において通信実験が実施された。例えば、避難所の避難住民にICタグを持ってもらい、そこから情報を読み取ってきく8号を介し、対策本部に送ることで避難状況を確認する実験などが行われた。

2011年の東日本大震災では、被災地の通信回線網が使えなくなり、情報収集、発信が困難になっていた。JAXAはNICTと協力し、移動が可能な小型アンテナを岩手県大船渡市、同県大槌町、宮城県女川町に設置し、「きく8号」を介して筑波宇宙センターと衛星通信回線を接続。これによって、各被災地の地上通信が回復するまで、インターネットに接続できる環境を提供した(大船渡市にはIP電話も提供)。

 

Image Credit:JAXA
■技術試験衛星VIII型「きく8号」(ETS-VIII)
http://www.satnavi.jaxa.jp/project/ets8/
■H-ⅡAロケット11号機解説資料
http://www.jaxa.jp/countdown/f11/presskit/h2a-f11_guide.pdf