こちらは、NASA(アメリカ航空宇宙局)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が観測した約80万個もの銀河と、そこに重ね合わせられた「ある物質」の分布図です。

青色の明暗で可視化されているのは、「ダークマター(暗黒物質)」の分布。青色が明るい場所ほど、ダークマターの密度が高いことを示しています。
NASAのJPL(ジェット推進研究所)の研究者などが参加する国際研究チームは、JWSTの観測データを用いて作成された、これまでで最も詳細かつ高解像度なダークマターの地図を公開しました。研究チームの成果をまとめた論文は「Nature Astronomy」に掲載されています。
時空を歪める「見えないレンズ」
電磁波では直接観測できないはずのダークマターの分布を、研究チームはどうやって把握したのでしょうか。鍵を握るのは「重力レンズ効果」と呼ばれる現象です。
アインシュタインの一般相対性理論によれば、質量は空間そのものを歪めます。地球と遠くの銀河の間に巨大な質量があると、それがレンズのような役割を果たして銀河から届く光の経路を曲げてしまい、地球から見た銀河の像は歪んで見えることになります。これが重力レンズ効果です。
見方を変えれば、像を歪ませているのが見えないダークマターの塊だったとしても、歪んで見える銀河をいくつも観測することで、ダークマターの分布を調べることができるのです。
研究チームは、銀河の像を大きく弧状に歪めるような「強い重力レンズ」だけでなく、わずかに歪ませる「弱い重力レンズ」にも注目。無数の銀河の歪み方を統計的に解析することで、光の経路を曲げたダークマターがどこにどれくらい存在するのかを逆算し、見えない物質の地図を描き出したのです。

宇宙の進化を支える「見えない骨組み」
今回の観測は、ろくぶんぎ座にある「COSMOS」と呼ばれる領域を対象に行われました。この領域は多くの望遠鏡が観測を行ってきましたが、従来の地上望遠鏡の約10倍、HST(ハッブル宇宙望遠鏡)の約2倍もの数の銀河を捉えることに加え、背景で輝く無数の銀河のわずかな像の歪みを精密に測定できるJWSTの優れた分解能によって、格段に解像度の高いダークマター地図が実現しました。
論文の筆頭著者であるJPLのDiana Scognamiglioさんは、今回の成果について「以前はぼやけていたダークマターの姿ですが、今では宇宙の構造を形作る“見えない骨組み”として、その詳細を驚くほど鮮明に見ることができます」と述べています。
初期の宇宙では、まずダークマターが重力で集まって基礎となる構造を作り、それが“骨組み”となってガスを引き寄せ、星や銀河が誕生したと考えられています。今回の地図でも、銀河団がある場所には巨大なダークマターの塊があり、銀河団どうしを結ぶガスなどの構造にもダークマターの細い分布があるといったように、まさに宇宙の大規模構造を決定づける“骨組み”としてダークマターが存在している様子が浮かび上がりました。
生命の誕生にもつながるダークマターの影響
この研究は、単なる地図の作成にとどまりません。私たち人類を含む生命とも無縁ではないのです。
ビッグバン直後の宇宙にはほぼ水素とヘリウムしか存在せず、それよりも重い元素(重元素)は恒星内部の核融合反応や超新星爆発などを通じて生成され、宇宙に広がっていったと考えられています。
重元素は惑星の形成に必要な物質ですが、銀河の形成をダークマターが早い段階で促したことで、重元素が宇宙に広がる時間を十分に確保できた可能性が示唆されているのです。JPLのJason Rhodesさんは「ダークマターが存在しなければ、生命の誕生につながる元素が私たちの銀河には存在しなかったかもしれません」と語ります。
JWSTの観測を通じて明らかになったダークマターの“見えない骨組み”は、天の川銀河をはじめとする銀河の成り立ちや、生命の起源についての理解をより深める、重要な知見となるでしょう。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- NASA/JPL - NASA Reveals New Details About Dark Matter’s Influence on Universe
- Scognamiglio et al. - An ultra-high-resolution map of (dark) matter (Nature Astronomy)






















