■すぐには手が届かないものの、火星独自の生命がそこにいるかもしれない?
今回の研究では同時に、地下5kmより浅い地殻上部では、液体の水どころか氷すら豊富に存在しない乾燥した場所であることが分かりました。このため、火星の表面近くにある氷の量は、過去に考えられていたほど豊富ではない可能性があります。
過去の研究では極地の氷冠、あるいは低緯度地域の比較的浅い地中には比較的豊富な氷が存在するという説もありますが、今回の研究結果は、豊富な氷が浅い場所にあることを予測していません。従って、火星の表面近くにある氷については、豊富な地域が限られるため、総量としてはかなり少ないのかもしれません。あるいは、過去の浅い地中の氷に関する研究結果は、今回とは別の手法で推定されたものもあるため、以前の研究結果が見直される可能性もあります。
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また、今回見つかった液体の水の層は、最も浅い場所でも11.5kmにあります。これは地球でもほとんど達成されたことがない深さであるため(※3)、この深さまで掘削して地下水を汲み上げると言うのは当面不可能でしょう。もし火星で水を入手するには、別の手段が検討されるでしょう。
※3…旧ソ連が行っていた「コラ半島超深度掘削坑」では、いくつかのボーリング掘削抗が10km以上まで達しています。最も深部まで達した穴は深さ12.262kmです。
ただし、地下水の汲み上げとは別の理由で掘削が行われる可能性は十分にあります。今回見つかった液体の水は、ある程度の深さでそれ以上浸透しなくなることから、かなり昔から維持されていた可能性があります。そして地球では、地下数kmの岩石の中でも生物が見つかっています。今回見つかった水の層は、少なくとも原理的には火星の生命体が数十億年に渡って生き残るのに最も適した場所です(※4)。最初の地球外生命体は、火星の地下深くを掘ることで見つかるかもしれません。
※4…外界と隔絶された空間であっても、生物は少なくとも1億150万年間に渡って生存し続けることが分かっています。20億5000万年前の岩石の隙間から生きた細胞が見つかったとする研究もありますが、今のところプレプリントの段階です。
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Source
- Vashan Wright, Matthias Morzfeld & Michael Manga. “Liquid water in the Martian mid-crust”. (Proceedings of the National Academy of Sciences)
- Robert Sanders. “Scientists find oceans of water on Mars. It’s just too deep to tap” (University of California, Berkeley)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部