■地震波解析で地下に大量の液体の水を発見!

【▲ 図2: エリシウム平原に着陸したインサイトの想像図。左下のドーム状の機械が地震計です。(Credit: NASA & JPL-Caltech)】
【▲ 図2: エリシウム平原に着陸したインサイトの想像図。左下のドーム状の機械が地震計です。(Credit: NASA & JPL-Caltech)】

Wright氏ら3氏の研究チームは、NASAの火星探査機「インサイト」の計測した地震波のデータを分析しました。地震波を分析して地下の構造を知る「地震波トモグラフィー」という方法は、火星に限らず地球でもよく行われています。地震波の伝わる速度・角度・減衰度合いは、波自体の性質と、通過する物質の性質(密度・温度・固体か液体かなど)によって変化します。

地震波の振る舞いはボーリング調査や実験によってよく分かっているため、計測された地震波の性質から逆算する形で、実際に掘らなくとも、地球の中心部の情報も知ることができます。これは、超音波検査で胎児や内臓の様子を見ることができるのと部分的に似ています。

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インサイトは地震計を搭載しており、3年間で1000回以上もの地震を記録しています。2022年にはこの地震波データの解析によって、深さ8kmより浅い場所には水や氷がない一方で、8kmより深い場所では岩石の間に液体の水があるかもしれないという研究も発表されていました。しかし2022年の研究手法では、隙間の少ない低密度な火成岩(珪長質岩)と、隙間の多い高密度な火成岩(苦鉄質岩)を区別することができず、岩石の隙間に液体の水があるのかどうかも確定させることはできませんでした。

【▲ 図3: 今回の研究により、深さ5kmより浅い地殻上部は乾燥している一方で、深さ11.5~20kmの地殻中部は岩石の隙間を液体の水が満たしている可能性が高いことが判明しました。(Credit: James Tuttle Keane and Aaron Rodriquez, courtesy of Scripps Institution of Oceanography)】
【▲ 図3: 今回の研究により、深さ5kmより浅い地殻上部は乾燥している一方で、深さ11.5~20kmの地殻中部は岩石の隙間を液体の水が満たしている可能性が高いことが判明しました。(Credit: James Tuttle Keane and Aaron Rodriquez, courtesy of Scripps Institution of Oceanography)】

今回の研究では、2022年の研究とは異なる方法(※2)でインサイトの地震波データの分析を行いました。対象となった範囲は、インサイトの着陸地点であるエリシウム平原の、半径50km・深さ20kmまでの地殻構造です。その結果、深さ11.5~20kmの地殻中部の地震波の性質を最もよく説明できるのは、破砕された火成岩の隙間に液体の水が入り込んでいる状態であることが分かりました。

※2…岩石の物理モデルと逆ベイズ推定の組み合わせ。

この場所では、氷が融けるのに十分な地熱があること、これより深い場所では、岩石の細かな隙間は閉じていると推定されていること、そして分析された範囲では全体的に層の構造を持っていたことから、液体の水が存在する層は安定して存在し、火星全体に広がっている可能性があります。これらから推定される火星の地下水の総量は、火星の表面を深さ1~2kmの海で覆うのに十分なほどです。これは数十億年前に存在した、火星表面の液体の水の総量を上回っています。

地震波を分析する手法は、地球を対象とした研究で洗練されているため、今回の研究結果は、今までよりも強力な証拠で裏付けられていることになります。このため、かつての火星表面に存在した液体の水は、その大半が地下に浸透したという説が、以前よりさらに有力なものとなりました。