【▲ 図1: エンケラドゥスの間欠泉を観察する土星探査機カッシーニの想像図。プルームを始めて観測しただけでなく、ミッションの後期にはプルームを複数回通過し、貴重なデータを提供している。 (Image Credit: NASA/JPL-Caltech) 】

土星の衛星「エンケラドゥス」は、2005年の土星探査機カッシーニによる観測以来、注目され続けている天体です。エンケラドゥスの南極付近には間欠泉があり、水のプルームが時々宇宙空間へと放出されているからです。

観測で得られた数々の証拠は、エンケラドゥスの内部が潮汐力によって加熱されて融けており、表面を覆う分厚い氷の下に液体の海が存在するという強力な証拠を提示しています。また、プルームにはある程度複雑な有機分子、それに塩化物イオンやナトリウムイオンなどが含まれていることから、この海は生命をはぐくむ条件が整っているとも考えられています。

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もしエンケラドゥスの海に生命が存在するとしたら、それは地球の深海底に存在する生命に似ていると推定されています。このような環境では届かない日光の代わりに、地熱活動で噴出する熱水噴出孔からの無機物を代謝するメタン菌などの化学合成生物が生息しています。エンケラドゥスにも生命がいるとすれば、そのような代謝経路を持つ生命であるはずだというわけです。

エンケラドゥスは、地球外生命がいるかもしれない天体の最有力候補の1つですが、その証拠を見つけるのは簡単なことではありません。エンケラドゥスの氷の下に海があるとしても、それは厚さ30~40kmと推定される氷殻の下であり、海の深さ自体も10kmあるとみられています。これほど深い穴は地球ですら掘られたことはありませんし、生物圏があったとしてもその規模は極めて小さいとされているため、仮に潜水艇を送り込めたとしても捜索は困難を極めるでしょう。よって、直接の探査によって生命を見つけられるかどうかはまだ当分先の話となりそうです。

【▲ 図2: エンケラドゥス内部活動のグラフィカルな説明図。氷の地殻の下には液体の海があり、底には地熱活動に由来する熱水噴出孔があると推定されている。また、氷の薄い部分からは海水が間欠泉として噴出している。カッシーニの観測により判明したプルームは液体の海と地熱活動の強力な証拠である。 (Image Credit: NASA/JPL-Caltech/Southwest Research Institute) 】

【▲ 図2: エンケラドゥス内部活動のグラフィカルな説明図。氷の地殻の下には液体の海があり、底には地熱活動に由来する熱水噴出孔があると推定されている。また、氷の薄い部分からは海水が間欠泉として噴出している。カッシーニの観測により判明したプルームは液体の海と地熱活動の強力な証拠である。 (Image Credit: NASA/JPL-Caltech/Southwest Research Institute) 】

しかしながら、エンケラドゥスから宇宙空間に放出されるプルームには、もしかすると生物の細胞が含まれているかもしれません。もちろん、放出された生物は瞬く間に低温と真空に晒されてしまいますから、生きたものを見ることは不可能でしょう。ですが、氷漬けにされた細胞を観る機会はあるかもしれません。とはいえ、本当に技術的に検出可能なレベルの量で細胞が含まれているのかどうかは未知数です。

アリゾナ大学のAntonin Affholder氏らの研究チームは、エンケラドゥスを周回してプルームを採集する将来の探査機が、生物の細胞を検出可能かどうかの検証を行いました。まず、研究チームは想定されるエンケラドゥスの生物圏の大きさをもとに、海水の上部に含まれる細胞数の推定を行いました。そして、細胞がプルームにのって噴き出す数と、1回のプルーム通過で探査機が採集可能な細胞の量、細胞が真空に晒されて壊れてしまう比率、そして測定機の性能限界により誤って検出できないエラーが生じる確率を調べ、現実的に細胞が検出可能かどうかを算出しました。

その結果、プルームに含まれる細胞の数が1mL(ミリリットル)あたり最大1000万個、1回の通過で採集できる量が0.00001(10万分の1)mL、細胞の損傷率が94%だと仮定した場合、100回のプルーム通過で細胞を検出できる可能性があることがわかりました。100回と聞くとハードルが高いように思われるかもしれませんが、例えば2050年代の到達を目指している探査ミッション「エンケラドゥス・オービランダー」の場合、プルーム通過を1000回としているため、十分達成可能な回数です。

また、細胞の直接検出が叶わなかったとしても、代わりにアミノ酸を検出する代替案も合わせて検討されています。アミノ酸は生命以外の自然環境でも生成され得る物質ですが、生命が介在しない場合の存在量には限界があると考えられます。もしプルームに含まれるアミノ酸などの複雑な有機分子の量が多い場合、生命以外の生成理由を考えることが難しくなるわけです。従って、仮に細胞という直接の証拠が検出できなかったとしても、その代わりに有機分子の量を測定することで、生命が存在しない可能性が高いか低いかを考えることが可能となります。

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プルームの採集だけで生命を見つけられると期待するのは、おそらくかなり甘い考えでしょう。しかし、比較的簡単に生命存在の可能性を絞り込める手段は、エンケラドゥスと同様に生命の存在が予想される他の天体での観測に応用できる可能性があります。

 

Source

  • Antonin Affholder, et.al. - “Putative Methanogenic Biosphere in Enceladus's Deep Ocean: Biomass, Productivity, and Implications for Detection”. (The Planetary Science Journal)
  • Kylianne Chadwick. - “What it would take to discover life on Saturn's icy moon Enceladus”. (University of Arizona)

文/彩恵りり

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