こちらは、日本時間2022年1月17日4時半頃に国際宇宙ステーション(ISS)から撮影された、トンガの海底火山「フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ」の噴火にともなう噴煙です。この画像が撮影された時刻から1日半ほど前の日本時間1月15日13時頃、フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイで大規模な噴火が発生。この噴火は潮位変動を引き起こし、気象庁によると岩手県久慈港をはじめ、日本各地でも津波が観測されました。アメリカ航空宇宙局(NASA)によれば、噴煙は成層圏の上にある中間圏にまで到達したといいます(最高到達高度は推定58km)。
NASAのジェット推進研究所(JPL)の大気科学者Luis Millánさんを筆頭とする研究チームによると、フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイの噴火は人工衛星による観測が始まって以来例のない規模で成層圏の水蒸気量を増加させ、わずかながらも一時的な温暖化の効果をもたらす可能性があるようです。
NASAの地球観測衛星「オーラ(Aura)」に搭載されている観測装置「マイクロ波リムサウンダ(MLS)」の観測データを分析した研究チームは、この噴火によって発生した水蒸気のプルームが高度53kmに到達し、成層圏の水蒸気量が約146テラグラム(※)増加したと推定しました。桁が大きすぎて実感が湧きませんが、これは成層圏に普段存在する水蒸気量の約10パーセントに相当するといいます。「このような現象を私たちは見たことがありません」(Millánさん)
※…1テラグラム(Tg)=1×10の12乗グラム(g)
NASAによると、過去にピナトゥボ山(フィリピン)などで発生した大規模な火山噴火では、成層圏に注入された大量のエアロゾルが太陽光を反射したことで、寒冷化の効果がもたらされました。いっぽう、フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイの噴火でも成層圏にエアロゾルが注入されたものの、過剰な水蒸気の温室効果によって、寒冷化ではなく温暖化の効果がもたらされる可能性を研究チームは指摘しています。
ただしNASAによれば、今回の噴火で成層圏に到達した過剰な水蒸気は数年にわたって留まる可能性があるものの、いずれ循環して成層圏から余分な水蒸気が取り除かれるため、気候に著しい影響が及ぶことはないといいます。研究チームは、今回のような噴火の気候変動に対する影響を定量化するために、今後の噴火でも火山ガスのモニタリングが重要だと訴えています。
関連:重力波望遠鏡「KAGRA」施設内の計測器がトンガ火山噴火の影響を捉えていた
Source
- Image Credit: NASA Earth Observatory image by Joshua Stevens using GOES imagery courtesy of NOAA and NESDIS
- NASA - Tonga Eruption Blasted Unprecedented Amount of Water Into Stratosphere
- Millán et al. - The Hunga Tonga-Hunga Ha'apai Hydration of the Stratosphere
文/松村武宏