自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターのStevanus K. Nugroho氏らの研究グループは、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」を使った観測により、太陽系外惑星において世界で初めてヒドロキシラジカル(OH)分子が検出されたとする研究成果を発表しました。今回の手法を発展させることで、将来は地球のような岩石惑星の大気を観測し、生命の兆候を探すことができるようになるかもしれません。
研究グループが観測したのは、「アンドロメダ座」の方向およそ400光年先にある系外惑星「WASP-33b」です。WASP-33bは木星と比べて質量が約2倍、直径が約1.6倍の巨大ガス惑星で、主星の「WASP-33」(質量と直径はどちらも太陽の約1.6倍)をわずか約1.22日周期で公転するほど小さな軌道を描いています(軌道長半径は約0.024天文単位、地球から太陽までの距離の約2.4パーセント)。
WASP-33bは、木星に似たガス惑星のなかでも特に表面温度が高いタイプの「ウルトラホットジュピター」の一つとされていて、その表面温度は摂氏2500度以上とみられています。これは大半の金属が溶けてしまうほどの温度で、これまでの観測では鉄や酸化チタンの検出が報告されていました。
今回検出されたヒドロキシラジカルは、いわゆる活性酸素のひとつで、WASP-33bの大気中に存在する水分子(H2O)が高い温度によって壊れることで生じていると考えられています。研究グループによると、極端に高温な惑星の大気中では水蒸気が解離している可能性が過去の研究において示されていたといい、今回の観測結果はこの予測を支持するものとされています。
ヒドロキシラジカルは地球の大気中でも水蒸気と酸素原子の反応によって主に生じており、メタンや一酸化炭素といった物質を大気から取り除く役割を果たしているといいます。研究グループによると、WASP-33bの昼側の大気中において、ヒドロキシラジカルは一酸化炭素分子とともに酸素を含む主要な分子の一つとなっており、大気の組成を決める重要な役割を果たしていることが考えられるといいます。
■すばる望遠鏡の新しい観測装置が活躍
今回の観測には、すばる望遠鏡に新たに設置された「IRD(InfraRed Doppler)」と呼ばれる観測装置が用いられました。IRDは近赤外線の波長で分光観測(電磁波の特徴を波長ごとに分けて捉える手法)を行うために開発された装置です。恒星や惑星の大気中に含まれる原子や分子は、それぞれ特定の波長の電磁波を吸収して「吸収線」と呼ばれる痕跡を残します。分光観測では吸収線を検出できるため、天体の大気にどのような物質が含まれているのかを調べることが可能です。
ただ、WASP-33bは恒星であるWASP-33のすぐ近くを公転しているため、検出された吸収線が恒星(WASP-33)と惑星(WASP-33b)のどちらに由来するのかを区別するのが困難です。そこで研究グループは、WASP-33bが公転することで生じる光の波長のわずかな変化(救急車のサイレン音が変化するドップラー効果と同じ原理)を捉えることで、WASP-33bの大気中に含まれるヒドロキシラジカルを検出することに成功しています。
研究グループが見据えるのは、WASP-33bよりも温度が低い、地球に似た岩石惑星の観測です。研究に参加した東京大学の河原創氏は「より冷たい惑星、最終的には第二の地球の大気を調査できるようにしたい」と語ります。
現在世界では「欧州超大型望遠鏡(ELT)」や「30メートル望遠鏡(TMT)」といった口径30~40m級の大型望遠鏡の開発・建設が進められています。研究に参加したクイーンズ大学ベルファストのChris A. Watson氏は、今回の手法を発展させることで「『我々は宇宙で孤独な存在なのか』という最も古い問いに対するヒントを得られるかもしれません」と期待を述べています。
Image Credit: アストロバイオロジーセンター
Source: アストロバイオロジーセンター
文/松村武宏