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火星に着陸する探査機や探査車は、地球の微生物を持ち込んでしまうことがないように、打ち上げ前に滅菌処理が施されます。今回、もしも地球の生物が火星にたどり着いてしまったとしても、そのままでは長期間生存するのは難しいとする研究成果が発表されています。
■火星の表面には時期によって冷たい塩水があるかもしれない
火星は気圧も気温も低いため、水(真水)は液体の状態を保てません。いっぽう塩水の場合は蒸発する速度が遅く、塩分濃度が高くなるほど凝固点が低くなるため、火星の地表や浅い地下でも液体として存在し得ると考えられています。
Edgard G. Rivera-Valentín氏(大学宇宙研究協会、アメリカ)らの研究チームは今回、現在の火星の表面に塩水が存在できるかどうかを検証しました。その結果、火星表面の40パーセント以上の地域では、火星の1年のうち最大で2パーセント程度の期間、最大6時間ほど連続して液体の塩水が存在する可能性が示されました。
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宇宙探査を実施するにあたり、探査対象の天体を地球の生物で汚染してしまったり、反対に探査対象の天体に由来する生物を地球に持ち込んでしまったりすることがないように、どのような措置を講じるべきかを定めた「惑星保護方針(Planetary Protection Policy)」というガイドラインが国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)によって作成されています。
特に火星の場合は表面付近に今も液体の水が存在する可能性があり、条件が整って地球の生物が生存・繁殖することが懸念されていました。研究チームによると、2008年に着陸したNASAの火星探査機「フェニックス」が撮影した画像から、機体の一部に塩水の水滴とみられる付着物が確認されたといいます。
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ただし、今回の研究では塩水の温度が摂氏マイナス48度を上回ることはないとしています。これは前述のCOSPARが予防措置を講ずるべき地域を定義するうえで示した摂氏マイナス23度を下回っており、仮に地球の生物が火星に持ち込まれたとしても、生存・繁殖するには至らないとみられています。
もっとも、人類がまだ知らないだけで、現在の火星でも生存できる極限環境微生物が存在しないとは言い切れません。「地球にはこうした環境でも満足できる未知の生物がいるかもしれません」と語るRivera-Valentín氏は、地球の生物による汚染のリスクが低いことは示せても、リスクがないとは言い切れないとしています。
Image Credit: ESA/Roscosmos/CaSSIS
Source: USRA / Nature
文/松村武宏