金星の大気では自転速度に対して最大で60倍も速く流れる「スーパーローテーション」が生じていることが知られていますが、これほど速い流れが維持される原因は発見から半世紀以上に渡り謎のままでした。今回、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」による観測データから、スーパーローテーションが維持される仕組みが明らかになったとする研究成果が発表されています。
■金星は太陽による加熱を原因とする大気の「熱潮汐波」が加速していた
金星の自転周期は地球と比べて遅く、1回自転するのに地球の約243日を要します(自転の方向が公転とは逆向きなので、金星の「1日」は地球の約117日に相当)。そのいっぽうで、金星の大気は自転の方向である西向きに高速で流れており、その速度は雲の層(高度50~70km)の上端あたりでは秒速およそ100m、金星を4日ほどで1周する速度に達しています。
堀之内武氏(北海道大学)らの研究チームは「あかつき」による金星大気の観測データを利用し、金星の大気が循環する様子を三次元的に詳しく分析しました。その結果、太陽によって昼側の大気が加熱され夜側で冷えることによって生じる「熱潮汐波」が、低緯度の大気に角運動量を運び込むことで大気を自転方向に加速し続け、スーパーローテーションを維持する役割を担っていることが明らかになりました。また、南北方向にゆっくりと循環している「子午面循環」によって、低緯度から高緯度に向けて角運動量の一部が運び去られ、スーパーローテーションを弱める効果がもたらされていることも判明しています。
JAXAでは「あかつき」プロジェクトの目的として「金星大気の三次元的な動きを明らかにし、金星の気象学を確立すること」を掲げており、特に大きな謎としてスーパーローテーションが生じる原因をあげています。今回の研究成果は、「あかつき」プロジェクトが掲げる大きな目標のひとつが達成されたことを意味するものと言えます。
■太陽系外惑星の研究にも応用できる可能性
今回の研究では、熱潮汐波がもたらすスーパーローテーションによって昼側から夜側に熱が運ばれるとともに、子午面循環によって低緯度から高緯度にもゆっくりと熱が運ばれることで、太陽のもたらす熱が金星全体に行き渡っていく様子も示されました。この東西の速い循環と南北の遅い循環が両立する仕組みは、近年発見が相次いでいる太陽系外惑星の研究にも応用できる可能性が示されています。
系外惑星のなかには主星の近くを周回しているために、主星の重力がもたらす潮汐力によって自転と公転の周期が一致する潮汐固定(潮汐ロック)の状態にあるとみられるものがあります。こうした系外惑星では片側が常に昼、もう片側が常に夜の状態になるため、自転速度が遅い金星と同じような大気循環が成立している可能性を今回の発表では指摘しています。「あかつき」の観測がもたらした成果は、今後の系外惑星の研究でも活用されることになるかもしれません。
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Image Credit: Planet-C project team
Source: JAXA
文/松村武宏