アメリカ航空宇宙局のジェット推進研究所(NASA/JPL)は現地時間9月28日、現在火星の表面や周回軌道上で行われているNASAの6つの火星探査ミッションに関して、探査機や探査車(ローバー)に向けた地球からのコマンド(指令データ)の送信を10月2日から16日にかけて停止し、探査活動を数週間ほど抑制することを明らかにしました。
コマンドの送信が停止されるのは、太陽・地球・火星の位置関係が理由です。2021年10月8日、火星は地球から見て太陽と同じ方向(太陽の向こう側)に位置する「合(ごう)」となります。JPLによると、合とその前後の期間は摂氏100万度の太陽コロナから放出されている荷電粒子が地球=火星間の無線通信に干渉する可能性があるといいます。
探査機や探査車から地球に向けて送られたデータについては欠損・破損といった影響を受けることが考えられますが、より重大なのは地球から探査機・探査車に向けて送信されたコマンドへの影響です。太陽から放出された荷電粒子によって破損したコマンドが届くことで、探査機や探査車の予期せぬ動作を招いてしまうかもしれないというのです。
▲JPLによる解説動画「信号が太陽に邪魔されると何が起こるのか?」(英語)▲
(Credit: NASA/JPL-Caltech)
JPLから公開されているこちらの解説動画を例に説明すると、地上から探査車に向けて送信された時点では「開始:レーザー照射、停止:走行」(START LASER/STOP DRIVE)だったコマンドの一部が欠損し、探査車には「開始:走行」(START DRIVE)というコマンドとして届いてしまうかもしれません。もしもこのとき探査車が崖のふちに停まっていて、受信したコマンドを実行したらどうなるか……というわけです。
動画ではリスクがシンプルに解説されていますが、こうした運用チームの意図しない動作につながることを避けるために、およそ2年ごとに起こる火星の合とその前後の期間は地球からのコマンド送信を行わないことになっているのです。ただし、コマンドの送信が停止されている間も、自律的に活動できる探査機や探査車には「宿題」が課されているといいます。
JPLによると、2台の火星探査車「Perseverance(パーセベランス、パーサヴィアランス)」と「キュリオシティ」は気象測定やカメラを使った塵旋風の捜索を実施します。Perseveranceとともに火星へ着陸した小型ヘリコプター「インジェニュイティ」は火星表面に着陸したままで、通信中継役のPerseveranceに機体の状態を毎週通知。先日マグニチュード4クラスの火星の地震(火震)を検出した火星探査機「インサイト」は、コマンドの送信停止中も地震の検出を継続します。
また、火星を周回している3つの探査機「2001マーズ・オデッセイ」「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」「MAVEN(メイブン)」は各々の観測を行いつつ、火星表面の探査機・探査車と地球との通信中継も継続します。これは火星の合とその前後の期間もすべての通信が断たれるわけではなく、一部の観測データは火星から地球へと送られ続けるためです。いっぽう、大半のデータは地球へ送られずに探査機・探査車に保存され、通常体制の探査活動を再開する前に1週間ほどかけて取得されるとのことです。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏