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宇宙機が展開する「帆(セイル)」というと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2010年5月に打ち上げた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」のような、太陽光の圧力を推進力として利用するソーラーセイルが思い浮かびます。いっぽう、欧州宇宙機関(ESA)では現在、ソーラーセイルとは異なる「帆」の開発が進められています。

■不要になったり壊れたりした人工衛星の高度を下げるために帆を利用

ADEOを搭載した人工衛星を描いた想像図(Credit: ESA)

ESAはGSTP(General Support Technology Programme、一般支援技術プログラム)の下でドイツのHPS社とともに、アルミニウムがコーティングされたポリアミド製の帆を内蔵した人工衛星用のサブシステム「ADEO」の開発を進めています。ソーラーセイルは宇宙機の運用中に活躍しますが、この帆は人工衛星が役目を終えたり故障したりした時になって初めて活躍することになります。

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地球を周回する人工衛星は希薄な大気の抵抗を受けて少しずつ減速し、高度が下がっていきます。不要になった人工衛星はそのまま放置しておけばいずれは大気圏へ突入しますが、それまでは長いもので何十年もスペースデブリの一つとして地球を周回し続けることになります。これに対し、ADEOを搭載した人工衛星は帆を展開することで大気の抵抗が増えるため、何もしない場合と比べて速やかに高度を下げて大気圏に突入させることが可能とされています。

スペースデブリの除去については、先日デブリ除去事業への参入を表明したスカパーJSATやスイスのクリアスペースのように、デブリをキャッチした人工衛星ごと大気圏に再突入させたり、レーザーを当てた部分が蒸発する際に生じる推進力を利用したりする手法が考案されています。

関連:スカパーJSAT、デブリ除去サービス事業に着手。レーザー搭載衛星を開発へ

こうした方法ではデブリ除去用の人工衛星を打ち上げなければなりませんが、ADEOは人工衛星に最初から組み込まれるシステムなので、除去用の衛星が不要になるメリットがあります。また、人工衛星本体が故障によって機能しなかったり、打ち上げから四半世紀以上が経っていたりするような状況でも自ら帆を展開することが可能で、その後は抗力に任せて受動的に高度を下げることができるシステムとされています。

なお、ADEOのように受動的なデブリ除去の手法は、JAXAとパートナーシップを締結している国内のベンチャー企業ALEでも「導電性テザー(EDT)」を利用したシステムの開発が表明されています。将来の人工衛星では、自らのデブリ化を防ぐシステムの搭載が当たり前のことになるのかもしれません。

関連:ALEとJAXA、人工衛星の運用終了後に作動する「宇宙デブリ拡散防止装置」を共同実証へ

 

Image Credit: ESA
Source: ESA / HPS
文/松村武宏

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