まずは、NASA(アメリカ航空宇宙局)が2026年3月2日に公開した2枚の画像をご覧ください。一方は地球、もう一方は火星の地表を宇宙から捉えた画像です。よく似た風景が広がっていますが、どちらが地球でどちらが火星か、見分けられますか?
(※画像に記された地域名やキャプションは一旦見ないで考えてみましょう!)


よく似た2つの地形の正体は…?
正解は、1枚目が地球で2枚目が火星です。
1枚目は地球のアメリカ・アリゾナ州にあるサンフランシスコ火山帯で、地球観測衛星「Landsat 8(ランドサット8号)」が2025年に観測。2枚目は火星のユリシーズ・コールス(Ulysses Colles)と呼ばれる地域で、NASAの火星探査機「MRO(マーズ・リコネサンス・オービター)」が2014年に観測したデータを使って作成されました。
NASAによれば、これら2つの地域にみられるような地球と火星の地形が互いによく似ていると、惑星地質学者は考えています。たしかに、どちらの画像にも頂上に円形の火口を持つ丸みを帯びた丘や、その周囲に広がる暗くて質感のある溶岩流、そして地殻が落ち窪んでできた直線状の谷である地溝(Graben)がはっきりと確認できますね。
ポイントは、この丸みを帯びたいくつもの丘。これはスコリア丘(Scoria cone)と呼ばれていて、マグマのしぶき(スコリア)が爆発的な噴火によって吹き飛ばされ、火口の周囲に降り積もることで作られる地形です。地球ではありふれた地形ですが、火星で見つかるのは珍しいことなのだといいます。
火星における爆発的な火山活動の証拠
実は、2010年代に入ってからタルシス地域などで特定された火星のスコリア丘は、地質学的に大きな意味を持っています。
チェコ科学アカデミーの惑星地質学者Petr Brožさんによれば、重力が地球の約3分の1で大気圧が低い火星は、理論上はマグマが弾け飛ぶような爆発的な噴火が起きやすい環境なのですが、不思議なことにその痕跡が見つかるのは稀なことでした。
たとえば、火星には太陽系最大の火山であるオリンポス山が存在しますが、これは主に溶岩が静かに流れ出す、穏やかな噴火によって形成されたと考えられています。そのため、ユリシーズ・コールス地域のスコリア丘は過去の火星で起こった爆発的噴火の明確な証拠であり、火山活動の歴史を理解する上で非常に重要な発見とされているのです。
ピッツバーグ大学の惑星地質学者Ian Flynnさんによると、火星のスコリア丘の形成プロセスは地球と同じですが、地球のものよりも背が高くて幅が広く、斜面がなだらかになる傾向があります。これは、火星の低い重力と大気圧の影響で、噴き上がったマグマがより高く、より遠くまで飛ぶためです。
地球での研究がもたらす火星の知見
火星の周回軌道で取得された画像だけでは、地形の形成プロセスを完全に解明することは困難です。例えば、「溶岩流が先にできてその上に丘が形成された」のか、それとも「丘が先にできて後から溶岩が流れ出した」のか、といった発生順序の判断は容易ではありません。
NASAの火山Patrick Whelleyさんは、地球のサンフランシスコ火山帯のような類似の場所を実際にフィールドワークとして調査することで、火星の地質を遠隔で解釈するための重要な手がかり(どのような痕跡を探すべきか)が得られると述べています。
一方で、Brožさんは安易な思い込みに対する警告も発しています。火星は地球とは根本的に環境が異なるため、一見するとスコリア丘に見える地形であっても、実は火星特有の条件下で形成された、形状のよく似た泥火山(泥が地下から噴出してできる地形)である可能性も考慮して研究を進める必要があるといいます。
地球の火山帯では数百年前の若いスコリア丘も存在しますが、火星のスコリア丘は数十億年前のものと考えられています。形成された時代は異なっていても、地球の地質を詳しく研究することは、数億キロメートル彼方の火星で遥かな過去に起こった火山活動の実態を解明するための、強力なツールとなるのです。
私たちが住む地球の風景にも火星の謎を解く鍵が隠されていると思うと、いつもの景色が少し新鮮に思えてきませんか?
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部










