サリー大学の天文学者Michelle Collinsさんを筆頭とする研究チームは、地球から約250万光年離れた「アンドロメダ銀河(M31)」の周辺で「超低光度矮小銀河」(Ultra-Faint Dwarf Galaxy)と呼ばれるタイプの銀河が新たに見つかったとする研究成果を発表しました。
この銀河は「ペガスス座」で5番目に見つかった矮小銀河であることから「ペガススV(Pegasus V)」と名付けられました。研究チームによると、地球からペガススVまでの距離は約225万光年で、アンドロメダ銀河からは約80万光年離れているといいます。冒頭の画像にペガススVが写っているのですが、画像のどこにあるのか、見つけることができたでしょうか?(場所が示された注釈付きの画像を記事の後半に掲載しています)
■ペガススVは初代銀河の“化石”のような天体かもしれない
矮小銀河は星の数が数十億個以下という小規模な銀河の総称です。矮小銀河は表面輝度が低い(暗い)銀河なのですが、超低光度矮小銀河はその名が示すように、矮小銀河のなかでも特に暗いタイプの銀河です。暗い矮小銀河は古い時代から生き残ってきた銀河だと考えられていて、最初期に形成された星についての手がかりが含まれていると期待されています。
近年、天の川銀河やアンドロメダ銀河が属する局所銀河群では、これまで観測することができなかった暗い矮小銀河が幾つも見つかるようになりました。しかし、画像を公開した米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)によると、これまでに見つかった暗い矮小銀河の数は理論上予測されている数よりも少ないようです。
暗い矮小銀河の数が理論上の予測よりも本当に少ないのだとすれば、宇宙論と暗黒物質の理解に重大な問題が潜んでいることを意味するといいます。渦巻腕(渦状腕)を広げた雄大な渦巻銀河やジェットを噴出する活発な楕円銀河とは姿がかなり異なるものの、矮小銀河もまた研究者にとって重要な存在なのです。
ペガススVは、チリのセロ・トロロ汎米天文台にあるブランコ4m望遠鏡の観測装置「ダークエネルギーカメラ(DECam)」を使って撮影された画像をチェックしていたアマチュア天文学者Giuseppe Donatielloさんによって発見されました。
研究チームがハワイのマウナケア山にあるジェミニ天文台の「ジェミニ北望遠鏡」を使って改めて観測を行ったところ、ペガススVまでの距離が明らかになったことに加えて、金属(ここでは水素やヘリウムよりも重い元素のこと)が非常に乏しいこともわかったといいます。
金属は恒星内部の核融合反応によって生成され、恒星風や超新星爆発などによって周辺へ放出された後に、新たな星の材料となります。そのため、星の世代交代が進むにつれて、銀河の金属量は徐々に増えていくことになります。金属が少ないということは、その銀河における星形成活動が早い段階で止まったことを意味します。
研究チームによると、ペガススVはアンドロメダ銀河の周辺で見つかっている暗い矮小銀河のなかでも特に金属が乏しく、とても古い星々が集まっていることから、この宇宙における最初の世代の銀河の“化石”のような天体である可能性があるといいます。
Collinsさんは、ペガススVの化学的性質に関する研究を通して宇宙最初期の星形成についての手がかりが得られることを期待するとともに、ペガススVが銀河の形成や暗黒物質を理解する上で役立つかもしれないと語っています。初期の銀河は「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の観測対象のひとつでもありますが、“初期の銀河の化石”は今後も意外と近いところで見つかるかもしれません。
■この記事は、【Spotifyで独占配信中(無料)の「佐々木亮の宇宙ばなし」】で音声解説を視聴することができます。
Source
- Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA; Image processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab), M. Zamani (NSF’s NOIRLab) & D. de Martin (NSF’s NOIRLab)
- NOIRLab - Gemini North Spies Ultra-Faint Fossil Galaxy Discovered on Outskirts of Andromeda
文/松村武宏