こちらの渦巻く炎のような天体は、人の目には見えない赤外線と電波の波長で観測された渦巻銀河「アンドロメダ銀河(M31、Messier 31)」の姿です。色は擬似的に着色されていて、赤は水素ガス、緑は冷たい塵、青は温かい塵の分布に対応しています。
銀河円盤を縁取る水素ガスは、その一部が銀河間空間から引き込まれていることがわかります。アメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、ガスの一部は遠い過去にアンドロメダ銀河と合体した銀河から引きはがされたものだといいます。星間空間に広がるガスや塵の分布を捉えることで、研究者は銀河の目には見えない複雑な構造を調べることができるようになります。
■赤外線と電波で詳細に描き出された近隣の銀河におけるガスと塵の分布
アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)とSTScIは、冒頭のアンドロメダ銀河をはじめ、「大マゼラン雲(LMC:Large Magellanic Cloud、大マゼラン銀河とも)」「小マゼラン雲(SMC:Small Magellanic Cloud、小マゼラン銀河とも)」「さんかく座銀河(M33、Messier 33)」の新しい画像を2022年6月16日に公開しました。これら4つの銀河はいずれも地球から約300万光年以内にあるとみられています。
画像の作成には欧州宇宙機関(ESA)の「ハーシェル」と「プランク」、NASAの「IRAS」および「COBE」といった、すでにミッションを終えた天文衛星によって取得された観測データが使われました。また、アメリカのグリーンバンク天文台(GBO)にある「グリーンバンク望遠鏡(GBT)」など、地上の電波望遠鏡によって取得されたデータも使われています。
大マゼラン雲、小マゼラン雲、さんかく座銀河の画像も色分けはアンドロメダ銀河と同じで、赤が水素ガス、緑と青が冷たい塵と温かい塵の分布を示しています。こちらの大マゼラン雲の画像では、ところどころにガスや塵が少ない泡のような領域があります。STScIによれば、この領域では新たな星が形成されていて、若い星からの強い星風によってガスや塵が吹き飛ばされているといいます。
また、画像の左下には尾のように伸びているガスが写っています。STScIによると、この構造は約1億年前に小マゼラン雲と衝突したことで形成された可能性があるようです。
ハーシェルなど4つの天文衛星や地上の電波望遠鏡による観測データは、近隣の銀河における塵の雲の変化を理解する助けとなっています。STScIによると、高密度な塵の雲では重元素の大半が塵に閉じ込められているいっぽうで、低密度な領域では若い星の放射や超新星の衝撃波が塵を砕き、重元素の一部がガスに戻されることでガスと塵の比率が変化します。ハーシェルの画像は、1つの銀河におけるガスと塵の比率が最大20倍変動する可能性を示しているといいます。
画像で分布が示されている水素ガスや塵は、新たな恒星や惑星の材料にもなる物質です。私たち人類を含む生命と関係が深い地球の炭素・酸素・窒素や、人類の文明活動を支える鉄・金といった元素も、もとをたどれば恒星内部の核融合反応や超新星爆発によって生成され、太陽系が形成される前は天の川銀河の星間空間を漂っていたことになります。STScIは画像公開のプレスリリースにて、塵の理解を深めることはこの宇宙を理解する上で欠かせないことだと言及しています。
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Source
- Image Credit: ESA, NASA, NASA-JPL, Caltech, Christopher Clark (STScI)
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文/松村武宏