こちらは「かじき座(旗魚座)」の方向にあるHII(エイチツー)領域「N79」の一部を捉えた画像です。N79は約16万3000光年先にある天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)のひとつ「大マゼラン雲」(LMC:Large Magellanic Cloud、大マゼラン銀河とも)にあります。
HII領域はガスと塵を材料に新たな星が形成される現場であることから星形成領域とも呼ばれており、“星のゆりかご”と表現されることもあります。可視光線で観測すると、若い大質量星から放射された紫外線によって電離した水素ガスが放つ光で赤やピンクに見えます。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成されました。欧州宇宙機関(ESA)によると、この画像ではN79を構成する3つの分子雲複合体の1つ「N79 South」を中心とする範囲が写っています。なお、ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ガスだけでなく塵も高い密度で集まっている分子雲は可視光線を遮ってしまいますが、ウェッブ宇宙望遠鏡が捉える赤外線は塵に遮られにくいため、内部の様子を探ることが可能です。画像の中央やや上では若く明るい星が輝いていて、針のような放射状の光(※)を伴う様子に神秘的な美しさを感じます。画像にはこの明るい星以外にも、分子雲の中にある幾つかの明るい光点が写っているのがわかります。
大マゼラン雲の星形成領域は天の川銀河の星形成領域とは化学組成が違い、宇宙における星形成がピークに達した頃(今から約100億年前)の星形成領域に似ていると考えられていることから、研究者の注目を集めているといいます。ESAによれば、ウェッブ宇宙望遠鏡の登場によって今、N79における星形成と初期宇宙の銀河の詳細な観測の両方を行う機会が研究者にもたらされているということです。冒頭の画像はESAから2024年1月23日付で公開されています。
※…この光は回折スパイク(diffraction spike)と呼ばれるもので、望遠鏡の構造によって生じます。たとえば「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の場合はシンプルな十字形の回折スパイクが生じますが、ウェッブ宇宙望遠鏡の場合は主鏡を構成する六角形のミラーセグメントと副鏡を支える3本の支柱によって生じた回折スパイクが組み合わさった独特な形をしています。
Source
- ESA/Webb - A massive cluster is born
文/sorae編集部