ウェスタンオンタリオ大学のShannon Hibbard氏らの研究グループは、火星の北半球に広がるアルカディア平原の地下に埋もれている氷河の証拠を示した研究成果を発表しました。研究グループはアルカディア平原について、平坦な地形で着陸がしやすく、比較的緯度が低い地域でありながらも「その場資源利用(ISRU:In-Situ Resource Utilization)」の一環として地下の氷を利用できる可能性もあることから、将来の有人探査における着陸地点として有望だとしています。
これまでの探査機による観測によって、火星の地下には水の氷が存在することが明らかになっています。アメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機「2001マーズ・オデッセイ」や「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」は、火星の地下に存在する氷を軌道上から発見。2008年に火星の北極圏に着陸した探査機「フェニックス」は、地面を直接ロボットアームで掘ることで地下の氷を発見しています。
火星の地下に眠る氷は、将来の有人火星探査において飲用水や燃料として利用できる可能性があることから注目されています。現地で水を調達することができれば、地球から持ち込む水の量を減らしてミッションの輸送コストを削減したり、代わりに別の物資を運んだりすることができるからです。また、スペースXのCEOイーロン・マスク氏が構想するような火星への植民事業でも、人間の生活に欠かせない水は重要な資源となるはずです。
しかし、比較的簡単に氷を採掘できそうな高緯度地域は気候が寒冷な火星でも特に寒い地域であり、太陽エネルギーの利用にも制限があります。有人探査ミッションの着陸地点や居住地の建設にはもっと緯度が低い場所を選ぶほうが現実的と言えますが、(火星としては)温暖な低緯度地域の氷は地下深くまで掘らないと手に入らないことも考えられます。
研究グループは今回、アルカディア平原の北緯37度~43度・東経193度~204度のエリアを対象に、氷の流れに関連していると考えられている「viscous flow features(粘性流地形)」と呼ばれる特徴的な地形を調査しました。研究グループによると、氷河が通常形成される谷や山裾の傾斜地とは違い、アルカディア平原の曲がりくねった粘性流地形は比較的平坦な場所に存在しており、地球の氷床にみられる氷流(ice stream、平坦な氷床のうち周囲と比べて速く移動している部分)との類似性が指摘されています。
研究グループは、この地形が地下に埋もれた氷河の存在を示すものであり、有人探査の着陸地点として理想的だと考えています。Hibbard氏はこの地域について、安全な着陸のための平坦な地形、比較的緯度が低く浅い場所にあって利用しやすいことが期待される豊富な氷、そして氷流の可能性を検証する学術調査が行えることを踏まえて、将来の有人探査ミッションにとって良い目的地だと言及しています。
なお、アルカディア平原についてはシャベルでも掘れそうなくらいの浅いところに水の氷が埋まっている可能性が過去にも指摘されています。火星の中緯度地域としては水の氷を採掘しやすいことが考えられるアルカディア平原は、将来人類が初めて火星に降り立つ場所となるのかもしれません。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: ウェスタンオンタリオ大学 / コロンビア大学
文/松村武宏
最終更新日:2021/06/03